「救いの存在である推しに承認されたくて、生活費以外のお金はすべて推しへ使っていました。毎週ライブに通い、開催されるチェキ会には必ず参加、ほかにも撮影会やオフ会、物販などを考えると、会社員の給料だけじゃキツいのは明らかです。
当時の手取りは20万円。推し活はお金がかかるし、美容課金もしたいし、お金が全然足りない状況でした。大学の頃からコツコツ貯金してた100万もスッカラカンになり、高い給料をもらえる仕事はないかと思い、始めたのが風俗の仕事。おじさん相手の仕事は体力・精神的にキツいけど、出勤日は自分で決められるし頑張って稼いだ分推しに使えるので、自然と頑張れるんですよね」
福利厚生が手厚いサラリーマンの肩書きを捨て、未経験の業界へ飛び込んだ彼女。今までの「推し活」で使った金額は400万円ほどだと話す。推し活を詳しく知らない人からは「ライブのチケット代や写真代だけで、なぜそんなに高額になるの?」と疑問を投げかけられることも多いようだ。
チェキ会では、複数枚購入したファンのみが得られる特典が存在し、ライブのチケット代は2000〜3000円だが、ライブ終了後におこなわれる物販(グッズ販売)に数万から数十万円かける人もいる。チェキ会やライブは推しに近づける唯一のチャンスなので、ここぞとばかりに大枚をはたいてしまうのが推し活の闇である。
「風俗の仕事でもらえるのはだいたい月50〜60万くらいで、生活費以外のお金はほとんど推し活で消えていきます。推しに使えるのが幸せなので、自分の体を使って稼いでいることの嫌悪感とか虚無感はないですかね。
でも、周りには風俗で働いているって言えないので脱サラして何してるの?と聞かれたら『在宅でIT関連の受託業をしている~』と適当に言ってます(笑)。IT系っていうとなんとなく収入よさそうだし、ネットに疎い人はそれ以上聞いてこないので」
推し活を始めて4年。今後の推し活の方向性を尋ねると、清々しい表情をしながらこう語った。
「風俗の仕事はたまにメンタルやられるけど、いまさらお昼の仕事に戻れません。仕事とか結婚とかどうでもいいです(笑)。自分が得たお金を好きなように使って人生を楽しんで、文句言われる筋合いもないですもんね。今が楽しければいいかな。結婚、安定した仕事、本当はほしい子ども……とかから、目を背けているっていうのは多少ありますが、推しに貢ぐのは幸せです」
周りには理解されにくいと話す彼女の価値観。特に好きなことや趣味がなく、たまたまハマってしまったのが”推し”。
ふとしたきっかけで沼に落ちてしまう人は多いのだ。
後編では、推しの沼から抜け出せず「魔法のカード」を手に入れた、大手製薬会社勤務の男性に話を伺っていく。
取材・文 錦城和佳