東京都港区は公立中学校の修学旅行の行き先を海外にすると発表した。これは都内初。行き先はシンガポールだ。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「実施は来年からを予定しているようです。公立中学校での海外への修学旅行は、全国でもまだ珍しく、これをきっかけに中学受験だけでなく、公立中学への入学を検討するような動きも出てきそうです。ただ賛否両論でしょうね。区政のことですから、区外の人が口を出すことではありませんが…」。
これまでの修学旅行にかかっていた自己負担額は、およそ7万円。これを維持し、そのほか超過分を区が支払うという。
「1人あたり50万円以上を区が負担することになると考えられます。この金額がフィーチャーされたことも賛否両論を引き起こしている一因です。ただ、港区は小学校から国際科という科目があり、全校に外国人講師が配置させるなど、国際人材教育を模索してきたという経緯があります。ですから、突如として始めたわけではありません。一方で格差社会を感じさせる、国内旅行でもいい、価格が高いなどの意見も聞かれます。私がもっとも気になったのは、そもそもの負担額である7万円の捻出にすら、苦労する家庭があるのではないかということです。お小遣いも持参するとなるとさらに出費は増えます。お金持ちが多いイメージの港区ですが、すべての人がそうとは限りません」。
今回は修学旅行費用の捻出に四苦八苦しているある女性に話を聞くことができた。
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児玉花枝さん(仮名・46歳)は、高校1年生と中学2年生の男の子を育てる母である。毎日近所のスーパーでパートをして、夫の収入を助けつつ、なんとかこれまでやってきた。
「ギリギリの生活で、お恥ずかしながら貯金なんて夢のまた夢…。毎日かなり切り詰めて生活しています」。
国税庁が発表した「令和3年度民間給与実態統計調査」によると40代の平均給与は、前半で480万円、後半で504万円だが、花枝さんの夫の年収はこれに達していない。
「夫は高卒で地道に働いてきましたが、正規雇用に就くことができたのは1度だけだそう。あとは非正規雇用です。転職は全部で5回。最後の転職はコロナで雇い止めになったことによるものでした。手取りは22万円程度。これに私のパートの給料5万円を足した27万円で暮らしています」。
確かにこれで4人暮らしはかなり厳しい。
「私たち夫婦は、真っ当にやってきたつもりです。でも、世間ではきっと努力が足りないと言われてしまうんでしょうね。この間も親戚に税金泥棒なんて、嫌味を言われちゃいました。ただ、私は親の介護もあってパートはこれが限界なんです。家賃は6万円程度。古いですが、一応3LDKあるので以前住んでいた木造アパートに比べれば、すごくありがたいです」。
とはいえ、生活は厳しい。
「ここ最近の値上げは、本当にキツいです…。光熱費も跳ね上がり、子どもたちも成長期でとにかく食べるようになってきたので、食費もどうしても上がってしまいます」。
花枝さんは就学支援金制度も利用しているが、それでも出費がかさむと話す。
「高校入学時に支払った制服代や体育技、上履きなどの支払いがびっくりするほど多くて。夏と冬の制服だけで6万円程度。体育着もインナーは1枚では着回しが効かないので、2枚買わざるを得ません。ジャージと合わせると2万円近くするんです。結局、上履きとか教科書とか合わせたら、10万円に近い金額でした。もし、これ以上身長が伸びたらどうしよう…と今から不安です。買い換える余裕はどこにもありませんから。色だけ指定とかにしてくれたら、安いものが探せるのに…。」。
制服のリサイクルなどはないのだろうか?
「ありますよ。でもうちの息子は184cmと高身長で見合うものがなくて…。新品を買ってやりたいという親心もあって、結局買いました」。
通学用のヘルメットやカバン、辞書など、もろもろ合わせると12.3万円はかかったという。
「これでもかなり切り詰めている方だと思います。電車やバスを使えば、交通費もかかりますしね。次男はかわいそうですが、長男のお下がりが基本です。新しいものを買ってやる余裕はありません」。
そんな苦しい生活をしている花枝さんを悩ますある問題があるという。
「長男は来年、高校2年生。次男は中学3年生。それぞれ修学旅行があるんです。中学は6万円程度、高校は9万円程度、費用がかかります。積み立てか、分割払いという支払い方法があったんですが、積み立てする余裕がなくて…。少しずつお金を貯めて、分割で支払おうと思っていたんですが、なかなかお金を貯められていないのが現状です」。
その上、修学旅行にはほかにもかかるお金があるという。
「おこずかいとか、旅行用のバックなんかももちろん必要ですよね。修学旅行の時期が被っていないことだけで救いですが、1年に2度の修学旅行は正直、キツいですね。気が重いです…」。
そのほかにもこうやって突然お金が必要になることはあるのだろうか?
「小学生のときですが、6年生になって突然請求されると知ったのがアルバムなど、卒業記念にまつわるお金。うちの学校は15000円を2回支払いました。アルバムや記念品なんて正直いらないと言いたかったですが、子どもの手前、そんなことも言えなくて…。私が保護者会などに参加できていないこともあるのですが、このような費用がかかることを予期していなくて、それも辛かったですね」。
しかも実際もらった記念品は、写真入りのマグカップだったと話す。
「本当にいらないといいますか…。1000円くらいの予算だったみたいですが、これなら返してもらった方が良かったとさえ思いました。1000円も無駄にはできません」。
確かに受験や入学といった大きな行事にまつわる出費については、よく知られているが修学旅行や卒業記念品といった細かな出費については、当事者でないとなかなか知ることはない。
【後半】では、どうしてもお金を工面できそうにない花枝さんが取ったある行動についてさらに詳しく話を聞いていく。
取材・文/悠木 律