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LIFESTYLE ネット・SNS危機管理マニュアル

寿司ペロ裁判で投げ込まれた変化球の投げ先にあるものは・・・

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

先週、岐阜県のある学校を訪問した際、例の「寿司ペロ」事件の周辺にいた方からお話を聞いたんですが、当時は大変だったそうで……少年が通っていた学校には、連日「どんな教育をしていたんだ!」というクレームが殺到、その対応の追われる日々だったとか。そもそも「寿司ペロはダメだよ」なんて、学校で教える話じゃないですけどね。

その方が「また騒ぎになるのか」と頭を抱えていたのが、最近明らかになった少年弁護側の「法廷戦略」です。 今件では、スシローが少年に対し「事件後の対策費」や「売上減」などを根拠に、数千万円レベルの損害賠償訴訟を起こしています。これに対する少年側の答弁書が、「変化球しか投げない投手なの?」という内容だったんですよね。 例えば、少年は反省しているが、売上減はライバル店のせいかも。全ての醤油さしを交換する必要ってあったっけ? 来店を避けるお客の「お気持ち」までは責任を負えません……等々。 もちろん裁判における戦い方の一つだろうし、少年側の弁護士も「あ、オレ変化球しか投げてないな」って自覚していると思いますが、一つ気になったのが、 「あの動画を拡散させるつもりはなかった。友人たちも拡散させていない。バラまいたのはSNSの著名インフルエンサーです」 というロジック。つまり、拡散は暴露系のSNSアカウントのせいであって、悪いのはそいつだ、という……うーん、さすがにコレはどうなんですかね。

「アイスケース炎上から10年」

みなさんは10年前に起きた「アイスケース炎上」を覚えていますか? コンビニ店員が、お店の奥のアイス売り場でクーラーケースに入り込み、SNSに投稿、炎上した事件。お客さんが食べるアイスの上に、アルバイトが寝っ転がって騒ぎになったヤツです。

この事件をきっかけに「ネット炎上」という言葉が世間に広まったのですが、当時のネットには「インフルエンサー」なんていませんでした。その後も類似の事案が次々と発生し、「バカッター」なる言葉も知られるようになりましたが、いずれも拡散させたのは無数の無名アカウントでした。

ネットは「誰が」ではなく「何を」投稿したかで情報が拡散するもの。それが「悪い情報」なら、その拡散はさらに加速する。インフルエンサーがいなくても拡散は起きるんです。当たり前ですよね。それなのに、少年側の主張はまるで

「山頂から小石を投げたら、ふもとでがけ崩れが起き、大きな被害を与えてしまった。反省はしているが、がけ崩れは途中にあった大きな石が原因であり、私のせいじゃない」

と言っているようなモノ。いくら何でも無理がある。

ネットは「玄関ドア」

友だち限定の設定だったとか、拡散させるつもりは無かったとか、もし本気で言っているのなら、それはネットに対する壮絶な事実誤認です。そもそもネットに「友だち限定」などありえません。限定公開だろうが、画像や動画で保存するのは簡単。それらが「信用できるオマエにだけ教えてあげる」の繰り返しで拡散していく。もう一瞬ですよ。

私は講演などで、毎回必ず「ネットはすべて玄関の外側」と伝えています。ネットって何かやらかせば必ず個人が特定される道具ですよね。家の外側で一発で身バレする場所って「玄関ドア」しかないんです。

だから、玄関に貼れるモノは何でもネットに載せてOK。貼れないものは、ネットに載せない方が良い……のではなく、載せられないのです。

実を言うと、スシロー側の主張や請求額が全て認められる可能性は低く、特に「アクリル板設置費用」は全く認められないのでは、と言われています。飲食業界にとって望ましくない判例となる可能性もあります。

それでも「控えめな金額」で裁判に勝ち、「あーそんなもんで済むのか」と世の中に誤ったメッセージを送ってしまうよりマシということでしょう。いつかまた模倣者が現れ、業界を潰すかもしれない、そんなリスクを取り除くには、大きく戦うしかないのかもしれません。

少なくとも「拡散」に関しては、妙な判決が出ないことを願っています。

 

Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)

※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。



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