炎上?してラッキーだった、スープストックの新戦略
先週、飲食チェーンのSoup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)がネットで炎上、と話題になりました。結論から言うと、実はネット炎上なんて起きていなかったんですが、この「ニセ」炎上騒ぎにより、結果的にこのチェーン店の営業戦略が一瞬で達成されてしまったという、ちょっと痛快なオチがつきまして……経緯はこうです。
コトの発端は、一部店舗で実施されていた「乳幼児に離乳食をタダで提供します」という取り組み。以前から好評だったそうで、これを「全国の店舗に展開!」とサイト・SNSに投稿したところ、一部メディアが
「スープストックの新施策が炎上」
というネット記事を掲載。なんでも「女性が一人で入れる店だったのに!」「子供が苦手なのでもう行かない」「余計な事するな!」「まともな客は来ない」などの批判でツイッターが大荒れとのこと。中には「メインの客層を見誤ったのでは」という識者コメントを載せているメディアもあったんですが……。
確かにツイッターのトレンドに上がるほどの反響でした。でもその中身は施策に対して好意的なものが多く、実は批判してる投稿の割合ってかなり少なかったんですよ。コレ、いわゆる非実在型ネット炎上、つまり炎上と呼べるほどの批判は無かったのに、メディアがごく少数の反発を取り上げて「炎上!」と報じた結果、注目を集め、炎上が既成事実になってしまったケースだったのです。
フラれたのはどっち?
非実在型のネット炎上なんて、今やさほど珍しくないんですが、今回注目すべきは、スープストックのサイトに掲載されている、本取り組みに関するコメント。
「お客様のライフステージが変わり、ご家族やお子様と一緒にご来店いただく方も増えてきた中で、Soup Stock Tokyoとしてお子様の成長を一緒に見届けることができればと~」(サイトより)
この取り組みを批判している人たちって、主に「こんな施策は客層(=ワタシ)とズレてる」的な文脈で怒っているケースが多かったんですが、スープストックのこのコメントを読む限り、店側としてはむしろ「客層を変えたい」んじゃないですかね?
離乳食の無償提供対象は10か月頃までの赤ちゃん。もちろん保護者と一緒に来店するし、離乳食のみのオーダーはNGだし、年齢がもう少し大きい子向けのキッズセットは630円という立派なお値段だし。スープストックの本当の狙いとしては、
「幼少期からウチの店、ウチの味の『馴染みに』なって欲しい。マックじゃなくてスープだよ!さあ、父ちゃん母ちゃんと一緒においで!毎週おいで!ねっ!」
こういった意図も少なからずあったはず。子どもが生まれ、スープストックから足が遠のいてしまった層もガッツリ呼び戻せるし、SDGs文脈で企業価値も高められる。投資家ウケもイイ。確かにそれなりの方向転換であり、ちょっとした決断ではありますが、ちゃんと戦略的に成立させようとしているんじゃないでしょうか。
なにより「店)離乳食やります」→「もう行かないっ!」→「店)かしこまり!」という流れが目の前で可視化され、一瞬で成立したのは、ザ・インターネット的で面白かったのです。この流れに非実在型炎上が一役買っていると考えると、たまには役に立つこともあるんだな、非実在型♪
「もう行かない勢」の中には、スープストックのサイトに掲載されている可愛い赤ちゃんを罵るコメント(←ココには書きたくないので省略)をしている方もいたので、うん、確かにそういう人間には絶対来店してほしくないだろうな、って思いました。
お腹空いたので、ちょっとオマール海老のビスクでも食べてきます。
Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)
※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。