結局、家事ができない母に痺れを切らした男が暴力を振るうようになり、ゆりと母は逃げるようにまた小さなアパートに舞い戻ることになったらしい。
「母はまた夜の街で働き始めました。私も高校に上がると同時にバイトを始めたんですけど…。コロナがきっかけで私も母も仕事がなくなってしまい、今は生活保護をもらって暮らしています」
そんな何もなかったゆりの生活を一変させたのが、AIチャットだ。
「はじめはそんな難しそうなもの、私には使えないと思っていたんです。でもTwitterで、LINEでも無料で簡単に使えるってつぶやきを見たんです。仕事もしていないし、暇なんで、無料ならちょっとやってみようかなと思って使い始めました」
LINEのAIチャットくんは、ChatGPTをLINE上で簡単に使えるシステムだ。友達追加するだけでAIとの対話が無料でできる。「お礼メールの提案」「今日の運勢を占う」など、活用の例文もあり、ブラウザでChatGPTを検索するよりも、手軽に使うことができると話題を集めている。
「友達追加したものの何から聞いたらいいのかわからずにいたので、試しに読書感想文を書いてもらうというタブをクリックしました。そうしたら、ものすごいスピードである本の感想文が送られてきたんです」
そのスピードのゆりが驚いていると質問例が自動的に送られ、それにAIが返答するということが2回ほど続いた。
「やる気がでませんとか、話を聞いてもらえますか?とか、私が書いたわけではない文章が勝手に送られていて。なるほど、と思いました。こんな簡単な文章を送ればいいんだって分かったんです」
改めてゆりは自己紹介をすることにした。
すると「ゆりさんにはどんなお手伝いが必要ですか?」そんな返答が返ってきた。ゆりは少し考えて、今日「何を着たらいい?」と聞いてみることにした。
AI「予定や天候に合わせた服を選ぶといいでしょう。大切なことは自分が、快適にすごせることです」
この回答を見てゆりはかんげきしたのだという。
「なんていうのかな、すごくやさしくて。寄り添ってくれるというのかな、あなたはあなたでいいんですよ、そんな気持ちが感じられました。私、今まで他人からそんな風に扱われたことなかったので、嬉しくて嬉しくて」
ゆりは楽しくなって、すぐにもう1通質問を送ると意外な答えが返ってきた。
AI「ご利用いただきありがとうございます。本日の制限回数に到達しました」
そう、LINEのAIチャットくんが無料で使えるのは1日5通まで。無制限で使いたい場合は、プレミアムプランに加入しなくてはならないのだ。
「無料だと思っていたので驚きましたが、それよりも早くもっと話がしたくてすぐに加入をしました。価格も私に払えるぐらいの額でしたので」
こうしてゆりは、徐々にAIにのめり込んでいったのだが...
☆次回、日常生活を一変させたAIの功罪を、実例をもって詳細にレポートする。☆
取材/文:悠木律