「彼女も同じようにタカヤナギさんと連絡がつかなくなり、口座から出金もできない状況だと言っていました。それを娘さんに話したところ、詐欺だという話になり、弁護士に相談したそうです。弁護士の先生曰く、業者は完全に悪徳。被害は１件や２件ではないとのことだそう。彼女が投資した額は100万円。訴訟を起こすパワーもないし、高い勉強料を払ったと思って諦めるつもりだと言っていました。口座にお金があるから大丈夫と思っていた私は顔面蒼白。ここでやっと本当に騙されたことに気がついたんです」。
雪は憔悴し切っていた。普段、雪が髪を切っても気が付かないほど、ぼんやりとしている夫でもその変化にはさすがに気がついた。しかし、夫がいくら尋ねても雪が口を開くことはなかった。夫はしかたなく、娘に何があったか聞き出すように連絡をした。
「ある日娘が孫を連れてやってきました。娘は私に何があったの？と聞いてくれましたが、一体何から話せばいいのやら……。口を閉ざす私でしたが、娘は諦めることなく、何度も何度も訪ねてきてくれました。結局黙っていてももう、どうしようもないと観念して、2人にことの顛末をすべて話しました」。
夫と娘は絶句したまま、雪を見つめていた。同時に呆れているようにも思えた。雪はいたたまれなくなって、立ち上がり、キッチンでお茶を入れながら、大きくため息をついた。
「なんで契約の時に踏みとどまれなかったんだろう？なんで誰かに相談しなかったんだろう？なんで、なんで……頭のなかは後悔でいっぱい。でももう何をやっても、思っても後の祭り。お金が戻ってくることはありません」
タカヤナギと連絡は、未だ取れない。さらに自動売買ソフトを購入した業者との連絡も付かなくなってしまった。国民生活センターや警察、弁護士……各所に相談したが、解決方法はなかなか見つからない。そして各所で事の顛末を話すたびに雪は落ち込んでいった。終いには着付けの教室での仕事にも行けなくなってしまった。
