「何度も、何度もタカヤナギさんにLINEをしました。それから電話もしました。何かあったのかもと心配になったくらいです。でも、待てど暮らせど、連絡はつきませんでした。騙されたかも……。そう思いました。
ただ、この時点では口座に利益があることは確かだったので、失ったのはタカヤナギさんに渡した50万円だけ。それくらいのことをしてもらった意識もあったので、しょうがないと思っていました」
とはいえ、毎日のように連絡をくれていたタカヤナギからの連絡なしに、FXを続けることには不安があった。口座にあるのは14万ドル。2,000万円には足りないが、これで一旦終わりにしよう、雪はそう決めて、自動売買ソフトを購入した業者に連絡をしたという。
「昼間に何度電話をしてもつながりませんでした。電話をかけるたび、不安が増すようでした。そのたび、スマートフォンで口座を見て、大丈夫、お金はあると確認をしていました。結局日後ぐらいに連絡がついたんですが……担当者からはポジション保有中なので現段階では出金はできないと言われてしまったんです」
口座にお金はあるけれど、出金ができない。そんなことがあるだろうか。それにポジション保有中とは一体どういうことなのか？いくら考えても答えは出ない。なんとかタカヤナギに連絡を取ろうと雪はLINEを開いた。
スクロールしてもタカヤナギの黄色の猫のアイコンがない。よく見るとタカヤナギのアイコンはグレーになり、「メンバーがいません」という表示になっている。雪は頭の中が真っ白になった。
「本当に騙されたかもしれない」
狼狽えたものの大事な大事な退職金の1,000万円を失敗して失ったなんて夫や子どもには言えない。雪は口座に現金があるという事実にすがりつき、なんとか平静を装った。夫のいない日中に何度も何度も自動売買ソフトを購入した業者に電話をして、疑問をぶつけた。
しかし、担当者からは同じ答えしか返ってこない。しびれを切らした雪はタカヤナギを紹介してくれた友人に連絡を取ったという。
