「3組に1組の夫婦が離婚すると言われる時代、その理由がDVであることも珍しくありません」
男女関係のトラブルに詳しい、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏が言う。
福岡に住み、バーを経営する加藤慎太さん(仮名・35)も、DV被害者のひとりだ。
「元妻とはある流血事件がきっかけで、離婚に至りました。結婚したときは2年で離婚するとは思っていなかったです」
慎太さんは東京出身で高校卒業後は福岡の大学へ進学。しかし学校とバイトの両立が難しく、大学2年の夏休み後に中退した。
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「大学で出会った友達の紹介で、2年生になってすぐバーの店員として働いたんです。バイトは深夜まで。そのあと飲みにいくのも多く、授業へ行けなくなってそのまま辞めちゃったって感じです」
大学中退後、両親には実家に帰ってこいと強く言われたが、仕事はあるので一人で生活することには困っていなかった。
東京に戻る必要性を感じていなかった彼は、そのまま福岡で暮らし27歳のときに自分のバーをオープンした。そこで友人から「バイトを探している女の子がいるから雇ってくれないか」と言われホールスタッフとして雇ったのが元妻だったようだ。
元妻との初対面の思い出をこう語る。
「最初見たとき、僕のタイプど真ん中で困りました(笑)。当時、彼女は21歳で僕より6歳年下。キャピキャピしてて可愛らしく、陽キャでお客さんとすぐ仲良くなれるし助かってました」
バーは慎太さん、元妻、大学生とフリーターの男の子、計4名でまわしていた。
スタッフは皆20代なのでノリが合い、店舗運営はうまくやっていたようだ。
元妻はスタッフの中で一番年下、お酒が好きで盛り上げ上手。彼女目当てでバーに来るお客さんは多く、皆から可愛がられていた。
オーナーでありながら雇っている元妻と一線を超えたのは、営業終了後にスタッフを連れて飲みに行った帰りだったそうだ。
「その日、知り合いのスポーツバーで飲んでて。僕らが来たからサービスもたくさんしてくれて、めちゃくちゃ酔ったんですよね。男子2人はこのあとクラブへ行くって言うので、僕と元妻は帰ることにしたんです」
慎太さんは彼女をタクシーに乗せて家まで送ろうとしたが、理性がきかなくなり自分の家へ誘った。
「元妻もまんざらでもない様子だったので、次の日の昼までに3回も行為に及びました。我に返ったとき、やべーやっちゃった……とは思いましたけど(笑)」
それからすぐ交際に発展したが他のスタッフに示しがつかないということで、彼女は慎太さんの知り合いがいるバーで働いてもらうことにした。
「当時の僕は1LDKに住んでいて奥さんは実家。付き合った時点で半同棲をしてました。交際1年の頃に妊娠が発覚し入籍。翌年に長男が生まれました」
妊娠をきっかけに、奥さんはバーの仕事を辞め専業主婦になった。慎太さんの収入だけで生活できたので、出産まで家でゆっくり過ごしていたそうだ。
しかし子どもが産まれてからは、すれ違いの日々。慎太さんが仕事で夜7時に出て夜中に帰ってくる生活は変わらない。
20代の頃は知り合いが店を出したらオープン祝いに行くなど、とにかく人脈を作りつながりを大切にしていた慎太さんを、彼女には理解ができなかったようだ。
「お店が閉まった後、閉店作業や掃除を含めたら深夜1時。家に帰るのは2時頃なんですよね。赤ちゃんの生活リズムとは真逆。休みの日は家族でお出かけしてましたけど、妻は慣れない育児や睡眠不足でイライラしてました」
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生活費は多めに渡していたのでお金に関する喧嘩はなかったが、生活リズムが違うからか、言い争いや喧嘩が増えた。
「子供を保育園に入れることを検討しましたが、待機児童になりました。激戦区だったので……。元妻は飲みに出かけるのも大好きだったので、ずっと家にいるのは苦痛だったかもしれません」
元妻は、もともと言葉遣いが綺麗ではなかったようだ。
「初対面ではキャピキャピ、ノリが良い感じですけど口が悪かったんですよね。キレたら『てめえ』とか言うタイプです。結婚してしばらくすると、僕を呼ぶときは『おい』に代わりました。舌打ちはデフォルト、強い口調が当たり前になってたんです」
それから慎太さんに対し、日常的に手を出すようになった元妻。
「特に付き合いの飲みで帰りが遅くなると、グーで背中とか殴られてました。付き合いが大事って分かってくれよって、何度か殴り返しそうになりましたが耐えてました。元妻がキレて大きな声を出して、息子が起きるなんてしょっちゅうでしたし……」
女性とはいえ、思いっきり力を込めたパンチはなかなか強い。肩を殴られたときは大きな青あざができるほどだった。
キレたとき以外は会話できるし生活は成り立っている、暴力は一時的なものだろう。慎太さんはそう考えていた。
☆しかしその数日後、深夜に帰宅した慎太さんに、恐るべき事件が起きた。次回では離婚を決断せざるを得なかった「マホービン事件」について詳細にレポートしたい。反面教師として、ぜひ読み進めてほしい☆
ライター 錦城和佳