私が英国という国の歴史や文化に興味を抱き始めた頃、日本にいながら英国の雰囲気に浸ろうと「Walker’s」のショートブレッドを買ってきて紅茶と一緒に楽しんでいた時期がありました。自分ではまだお菓子が作れず、紅茶の淹れ方もまだまだおぼつかない頃です。「Walker’s」のショートブレッドの濃厚なバターの香りがまだ見ぬ土地への思いを募らせました。
それから時が経ち、英国で暮らした数年の間に日本では手に入らない市販のものや、手作りのものなど様々なショートブレッドを試しました。主な材料はクッキーのように卵は使用せず、小麦粉、バター、砂糖の3つのみで、これらの配合の妙、トッピングやチョコレートのコーティングなど、多くのバリエーションがあります。
今回ご紹介するのは極々ベーシックなプレーンのショートブレッド。グラニュー糖ではなく粗糖を使った優しい味わいが特徴です。
◆スコットランドから英国全土へ、そして世界へ◆
ショートブレッドが誕生したのはスコットランド、初めて文献でレシピが紹介されたのは1736年のことですが、当地ではもっと古くからクリスマスや結婚式などの特別なイベントで食されていたようです。
その後英国全土へ広まり、国民的お菓子の地位を獲得、今では世界中に輸出されています。イギリスのお土産にとしても紅茶とショートブレッドは鉄板ですね。ヒースロー空港のお土産屋さんではショートブレッドの缶が棚いっぱいに並べられています。
◆素朴でベーシックなショートブレッドの作り方◆
①ボウルに室温に戻したバターと砂糖を入れ、ハンドミキサーなどでよく混ぜ合わせる。
②薄力粉と塩を①に加え、パン粉状になるまで混ぜる。塩を加えることで味が引き締まります。
③生地がまとまり始めたら、作業台などでしっかりこねる。生地が綺麗にまとまったらラップで包み、冷蔵庫で30分寝かせる。
④オーブンを200度に予熱しておく。寝かせた生地を打ち粉をした作業台の上で5mm厚に伸ばす。丸型の型抜きでしていく。1〜1.5cm厚に伸ばして長方形に切る、フィンガー・ショートブレッドもおすすめ。
⑤ベーキングシートを敷いたトレイの上に載せ、冷蔵庫で10分休ませる。(省略可)
⑥分量外の砂糖を振りかけ、オーブンに入れて10〜12分焼く。
※①〜②の作業をフードプロセッサーで行うと、かなりな時間短縮になります。
しっかりとした噛みごたえのフィンガー・ショートブレッドに比べて丸型はさくっと軽く、ほろっと崩れる。Spode社(スポード)のRuskin House(ラスキン・ハウス)シリーズのプレートと合わせて。クラシックなデザインと美しいグリーンの発色が魅力。
◆英国人のティータイムを彩るお茶請けの王道◆
本連載でもご紹介しましたスコーンとともにショートブレッドは最も有名な英国菓子ですが、スコーンよりもショートブレッドの方がより家庭的で頻繁に消費されているように思います。バッキンガム宮殿から田舎の小さなコテージまで、幅広く愛されるショートブレッドに、皆様もチャレンジしてみてください。
《材料》6cmの型で15個分
薄力粉 190g
バター 120g
砂糖(粗糖) 60g
塩 ひとつまみ
photos&text: Kohki Watanabe
◆渡邉耕希(わたなべ・こうき)◆
愛媛県出身の1992年生まれ。ロンドンの大学でクラシック音楽を学ぶ。現地でヴィンテージ・アイテムの魅力に取りつかれ、服や靴を中心にアイテムの歴史的背景まで探求するようになる。無類のスイーツ好きが高じて開設したYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にて料理や英国菓子作りを通して日本で実践できる英国的生活を発信している。