絶滅危惧種「町の洋食」を救え!
料理芸人のクック井上。です!
飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれるというデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんが沢山あります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町を知る連載コラム【洋食天国】、第3回は、銀座『煉瓦亭』にやって参りました。
銀座『煉瓦亭』は、なんと今から128年前、1895年(明治28年)創業。
今では、日本全国の洋食屋さんで当たり前となったさまざまなメニューの発祥の地と言われている、言わば‟洋食の総本山”的なお店です。
1895年(明治28年)といえば、樋口一葉が雑誌「文学界」に小説「たけくらべ」の連載を開始した年であり、伊藤博文が内閣総理大臣の時。
創業した年が、‟紙幣の肖像の人物”が大活躍していた年というのが、否応なしに歴史を感じさせてくれます。
さぁ、125年の歴史の扉を開けるとしましょう
お店に入ると、年季の入ったレジスターがお出迎え。
昭和初期の代物で、スウェーデン製だそうです。しかし、125年のお店の歴史を考えると、このレジスターでも中堅選手といったところ。
今日は、このレジスターよりももっと歴史が深い、いわば先輩にあたる洋食メニュー2品をご紹介致します。
まず1品目は、「元祖ポークカツレツ」。
そう、俗にいう‟豚カツ”は、銀座『煉瓦亭』が生みの親なのです。
今回、その‟元祖”ができるまでを探るため、特別に厨房に入れて頂き、揚げる様を拝見させて頂きました(貴重な体験に興奮を抑えられませんでした)。
丁寧に小麦粉・玉子・パン粉を纏わせて、揚げていきます。
厨房全体を包む、ラードの甘い香り。
しつこくなりすぎないよう、揚げ油はラードだけではなく、お店の配合で植物油も混ぜているそう。料理長・中村匡寿さんが手際よく揚げていきます。
黄金色に揚げられていく「元祖ポークカツレツ」は、小判のよう。
創業当時、銀座『煉瓦亭』はフランス料理店でした
揚げた後にバターを乗せた牛肉のカツレツ(仔牛のコートレット)を出していたのですが、当時の日本人の口に合うように改良されたのがこの「元祖ポークカツレツ」。
天ぷらをヒントにメニュー開発されたそうで、その名残で、今でも天ぷら鍋を使って揚げているんですって。
店に、メニューに、調理に歴史あり、です。
という事で、やって参りました、こちらが「元祖ポークカツレツ(2,000円)」です!
可愛い赤のギンガムチェックのテーブルクロスを敷いていただき、ブツ撮りさせて頂きました。写真越しに、穢れなき品の良さが伝わるでしょうか? お料理としてだけでなく、もはやデザインとして美しい!
ちなみに、カツにキャベツの千切りをつけ添えたのも、ご飯をお皿に盛り付けたライスも、ここ銀座『煉瓦亭』が発祥だとか。
数々の世紀の発明に深々と礼をしつつ、ウスターソースをたらり……。
その昔は、デミグラスソースをかけるスタイルだったそうですが、カツの素材や油同様、ソースも日本人の口に合うよう、ウスターを採用したんですって。
今では全て当たり前のスタイルが、様々な試行錯誤の末に辿り着いたに違いないですね。
それでは、いざ尋常に……入刀!
う、美味い! と同時に、上品さが印象的。
ポークカツレツを口に近づけた瞬間、衣に携えられた香ばしさとラードの甘さが鼻をくすぐります。
そして、歯をサクッと入れたと瞬間に、しっとりとした肉から程良い肉汁と旨味が染み出し、それら全てが合わさった味に、品を感じます。
その秘訣は、揚げ油・揚げ油の温度・肉質・脂身のトリミング、全てに隠されていますが、断面を見て、何かにお気付きではないでしょうか?
世の‟豚カツ”言えば、しっかり脂身が付いた豚ロースを使うイメージですが、銀座『煉瓦亭』の「元祖ポークカツレツ」は、脂身をそぎ落とした赤身の部分だけを揚げています。
カツレツを作る工程や素材の選定、その全てに‟元祖”のこだわりと技があります。
一日一日、365日×125年間、実直に積み重ねてきた歴史だけが織りなすことのできる品(ひん)であり、品(しな)なのです。
と感動ぎみに半分ほど食べ進めた時に、ふっと思った事……。
「これ、ご飯にも合うけど、ビールにピッタリだ!」と。
思わずビールをオーダーしてしまいました。
ここからは洋からしをつけてからサクッ&グビグビ……。
やっぱり合う! こりゃベストマッチ、お酒の肴として最高だわ。
池波正太郎先生の〆メシとは?
「歴史小説作家の池波正太郎先生は、まず、
やはり、オトナの男は、「元祖ポークカツレツ」をライスとではなくお酒とあわせる!
そして、僕の〆として、「明治誕生オムライス」をオーダー。
ちなみに煉瓦亭には「元祖オムライス」というメニューもあります。ふたつの違いを木田さんに伺うと「元祖オムライスは元々ライスオムレツとして生まれた、
さて、再び厨房にお邪魔させて頂くの巻。
弟子っこのように、傍らで拝見させて頂きました。
銀座『煉瓦亭』の「明治誕生オムライス」の中身は、チキンライスではありません。
具材は、醤油と砂糖でほんのり甘辛く味付けされた、玉ねぎと合い挽き肉、それにマッシュルーム。
それらをご飯と少量のケチャップと共に、炒めながら混ぜ合わせていき、ふんわり半熟の状態の卵で巻いて行けば完成。
日本人全員が笑顔になってしまうオムライス。これも銀座『煉瓦亭』が“元祖”。
食べるのが勿体ないほど美しい「オムライス」だ!
折角、きれいに巻いて頂いたのに申し訳なくなりますが、ここまできたら躊躇なく……、スプーン失礼します!
もう優勝です!
ふんわり卵は、ステーキで言うなら、ミディアムレアとミディアムの間くらいの状態で、流行りの‟ふわとろ”ではない。
かと言って薄焼きのウェルダン状態でもないという、とても繊細で絶妙な状態。
そして、中はケチャップでベタベタのオムライスとは一線を画す、明らかに和食を感じさせる洋食。
それらをスプーンですくい、口内調味すると、一発目にケチャップの甘さと酸味を感じ、それをふんわり卵のまろやかさが包んでいき、向こうから和食なケチャップライスがやってくる。
玉ねぎと合い挽き肉の旨味と甘み、マッシュルームの独特の香り、醤油と砂糖のホッとする味が舌と鼻を刺激していく…
複雑な味覚の波が何度も押し寄せる、絶品「明治誕生オムライス」。
初代が、仲の良い何軒かの洋食屋さんの店主たちと‟銀座らしいオリジナルメニューを作りたい!”との、夢を語らったことからスタートした創作料理だったんだそう。
そこから、各店、まずは賄いメニューとして誕生し、それぞれの「オムライス」を作ったといいます。
しかし、同時に「オムライス」作りにチャレンジした他の洋食店は全て店仕舞いしてしまい、今残るのは銀座『煉瓦亭』のみとなりました。
この味を守り続けてきた裏側には、お客が気付くか気付かないかの微調整を、125年続けられたのでしょう。
一発で辿り着く味でも技でもバランスでもない、絶妙中の絶妙なのですから。
煉瓦亭
電話 03-3561-3882
住所 東京都中央区銀座3-5-16
営業時間 11:15~15:00(L.O.14:30) 16:40~21:00(L.O.20:30)
休 日曜日
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
Text:Cook Inoue
Photo:Takuji Onda
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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