LIFESTYLE ― COLUMN

【衣食住の達人のアタマの中】 建築家、谷尻誠が不便な生活を愛する理由

2018.4.29 2018.4.29
2018.4.29

気鋭の建築家が手がけたユニークな自宅とは?

大人が何かを選ぶとき、そこには経験とセンスの差が顕著に出る。そして、数ある選択肢の中から最良のものを見極め得る人のことを、周りは“目利き”と呼んだりするワケです。とは言え、その”最良”は決してひとつではなく、個性の数だけ存在するもの。ここでは、さまざまな分野の第一線を走り続ける人々の、“らしさ”溢れる選択にフォーカス。物事の本質を知るキーパーソンは何を想い、どこに惹かれるのでしょうか?

第1回のゲストは、建築家の谷尻誠さん。多くの住まいや住居を作り上げてきた男が、自身のために空間を作ると、どうなるのか。 広島にある自宅に見る、彼の“理想の住まい”とは?

谷尻誠(たにじりまこと) 1974年生まれ、広島県出身。建築家。学生時代にデザインを専攻し、建設事務所を経て、2000年にSUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。2014年より吉田愛と共同主宰。現在は東京と広島に去年を構え、活動する。これまでに「JCDデザインアワード」や「グッドデザイン賞」をはじめとする、数々の受賞実績を持つ。
創作のアイデアや感性を育む、快適さと距離を置いたミニマルな家

谷尻さんが生まれ故郷であり、事務所を構える広島に自宅を完成させたのが約2年前。120平米超という広々としたマンションをリノベーションした空間、そう聞くとラグジュアリーな内装を想像しがちですが、実際は装飾は最小限に留められていて、意外なほどに簡素です。

谷尻:多少不便でも構わないから、余計なものは一切つくらない。この家をつくる上で最も意識したのはそこでした。機能ばかりを優先していくと便利にはなるけれど、画一化されてしまう。本来、住宅は固有性が際立っていた方がいいんじゃないか? と日頃から感じていました。

言葉の通り、この家にはソファもなければテレビの姿も見当たらず、確かに便利とは言い難い。理由を尋ねると、谷尻さんはこんな風に呟きました。

谷尻:やっぱりモノを増やしたり、機能的な設計にすれば生活は快適になります。だけど、そこで便利さに依存しすぎてしまうと、自分で考える力がどんどん弱まってしまったり、物事の本質的が見えなくなる気がするんです。

あえて選んだ、不便な暮らし。飾り気のない鉄製の床やアイランドキッチン、浴室もそんなコンセプトに則ったものですが、朴訥とした表情がむしろ心地よく感じられるから不思議です。

谷尻:まぁ、それでも快適ではないですけどね(笑)。冬はキンキンに冷たいからスリッパが欠かせないし、夏場の窓際なんて目玉焼きが焼けそうなぐらい熱くなります(笑)。ただ、昔はどこの家もこんな感じで、誰もがその中で暮らしていたはずだから。極端な話、大昔まで遡ると当時の人々は生活での不快さを克服するために土器をつくったりして新しい文明を生み出してきたとしたら、快適すぎる環境で暮らしていると、そういう機会を得にくくなると思うんです。もし仮に、当時の人々に近い感覚を持って現代のテクノロジーを応用することができれば、ものすごいイノベーションを起こせるのかもしれない。そう考えると、この自宅で暮らすことは、建築家として得るものがある。

“隙”があるからこそ、住空間らしい心地よさが生まれる

谷尻さんがこれまで手がけてきた多くの住宅や商業施設には、このように日々の暮らしから得たヒントが色々な形で生きています。リノベーションの際、元あった和室だけはほぼ手を加えずに残したのにも、もちろん理由があります。

谷尻:この部屋は、ある種の“ノイズ”として設けてみました。僕がデザインした空間の中に、ほかの人がつくったスペースが存在してる。このバランスが新鮮に感じるんです。

そのミニマルな空間に置かれた家具はと言えば、ミッドセンチュリーの名作からオーダーメイド、日本の古家具までが当たり前のように同居していて、まさに玉石混交といった様相。驚くべきは、そんなプロダクトが混在しつつも違和感なく溶け込んでいることだ。

谷尻:家の中には拾ってきた石なんかも置いてあります(笑)。良い表情の石を見つけると、よく持って帰って来るんですよ。飲み干したワインボトルに花を挿したり、カットしてグラスとして使ったりしてるんですけど、燃えないゴミなのか、花器なのか、それとも食器に見えるのか。これは捉え方ひとつで大きく変わってくると思うんです。

“不便な生活を選んでいる”と聞くと、禁欲的で頑なな姿勢をイメージしがちですが、谷尻さんの住宅に対する考えはあくまで柔軟で、かつ実験的です。

谷尻:以前ある方が、「自分に厳しく、脇甘く」とおっしゃっていたのですが、その言葉が僕にはすごくしっくりきて。やっぱりストイックで尖っている人って、近寄りがたい気がするじゃないですか? だけど、そこに隙があると一気に親近感と魅力が強くなる。この家もそんな風に感じてもらえたら嬉しいですね。

谷尻さんが居住空間に見出した、本質的な豊かさ。そこから、さまざまな“暮らしのヒント”が見つかりそうです。後編は、「インテリア」にフォーカスした記事を掲載予定。乞うご期待!

Photo:Satoshi Ohmura(portrait)、Toshiyuki Yano(still)
Text:Rui Konno

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