監督は山中瑶子、主演は河合優実。20代に付き合った彼女のことを思い出して泣いた!
映画好きとして、加えてライターとして、「女優」という言葉はとても美しくて尊いものですが、ウィキペディアによると、「日本では2010年代後半から、主にジェンダーレス思想を推進するメディアによって『女優』を言葉狩りして『俳優』と呼称するケースが見られる。対義語は男優。」との記載あり。
LGBTQもここに極まれりという事例ですが、9月6日(金)公開の映画『ナミビアの砂漠』は、紛れもなく、女優・河合優実を“目撃”すべき必見作です。
そう、あのテレビドラマ『不適切にもほどがある』で、主演の阿部サダヲの娘役を怪演した女優で、ドラマでは1980年代と2024年を行き来する可愛いコメディエンヌでしたが、この映画『ナミビアの砂漠』では、現代に生きる21歳の女性を快演。
ライターのおじさんは、観終わったその夜、大学時代に付き合っていた女性の夢を見ました。
2020年代を生きる若者を描きつつ、おじさん世代の心をも削る感情の爆発!
特別難しい映画評を書こうとは思いませんが、今、NHK総合で火曜日夜に放映中のテレビドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の岸本七実役の河合優実を観て、「達者な役者さんだな」と思った人に、映画『ナミビアの砂漠』は絶対のオススメです。
映画『ナミビアの砂漠』のカナ(河合優実)は、美容脱毛サロンで働いているが、将来のビジョンもなく、世の中も、自分の人生も全部つまらないと感じていながら、どこにもやり場のない感情を抱えたまま毎日を生きている21歳。
若者にはいつの時代でもあっても“先が見えない”ものですが、生まれたときから消費税があり、経済は停滞し、給料は上がらず、非正規雇用が主流となっている現代に生きる20代は、なかなか夢が見づらいだろうというのは、今一緒に生きている、一緒に働いているおじさん世代にもグサッと刺さります。
そんなカナは、優しいけれど退屈な恋人のホンダ(寛一郎)と同棲生活を送っていたが、映像クリエイターのハヤシ(金子大地)に乗り換えて新生活をスタート。自信家で刺激的なハヤシとの生活を送っているうちに、退屈な世の中と行き場のない自分自身に追い詰められていきます。
刹那的で暴力的で、自分のことが大嫌いで大好きなカナの生き方とは……
映画『ナミビアの砂漠』を観て思ったのは、「思春期の子供を持っている家庭は、きっと子供の思いや感情をくみ取れないだろうな」ということ。カナの言動を見ていると、本人ですら分かっていない“感情の爆発に火を付ける導火線”は、だれも理解できないし、カナ自身も他者に理解を求めていないので、全くどこにも行き着けません。
もちろん、家族であっても他人を100%理解するなんてことは不可能ですが、この映画の登場人物を見ていると、いわゆる閉塞感というのは、自分の目の前にある“壁”として年代を問わず必ず存在するものだというのが分かります。もちろんあなたにも、私にも。
この映画の主人公、カナは、そんな壁を感じながら、もがき、あらがい、ついには言葉や行動で暴れ出します。男性との関係性も、恋愛に求めるものも、恋愛で求められるものも理解できずに、ただ感情をむき出しにしたまま攻撃してしまう……。
そこで思うのが、「あぁ、自分の青春時代にも多かれ少なかれあったな」ということ。自分の居場所は侵されたくないけど、恋愛感情があるなら、相手の居場所には侵入したい。でも、共有出来る部分は意外と狭くて、そこは息苦しい……。立ち位置がないと、自分自身を追い込んでしまう恋愛はいつの時代も不幸な結果しか招きません。
「本当に描きたいこと」を圧倒的なパワーとエネルギーで描ききる!
2020年代の“今”を、一人の女性を通して鮮やかに描き出すのは、山中瑶子監督。日本大学芸術学部中退後、独学で制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017に入選。翌年、20歳で第68回ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待され、同映画祭の長編映画監督の最年少記録を更新。
本格的長編第一作となるこの『ナミビアの砂漠』は第77回カンヌ国際映画祭 監督週間に出品され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞しています。
1997年生まれの監督と、2000年生まれの女優のタッグから生まれた映画『ナミビアの砂漠』。プロデューサーが山中監督に伝えた、「二人で本当にやりたいことを自由に作ってくださいとだけ伝えました」という言葉から生まれた映像は、あらゆる世代の感情を揺れ動かします。
【キャスト】
河合優実
金子大地 寛一郎
新谷ゆづみ 中島 歩 唐田えりか
渋谷采郁 澁谷麻美 倉田萌衣 伊島 空
堀部圭亮 渡辺真起子
【スタッフ】
脚本・監督:山中瑶子
製作:小西啓介 崔 相基 前 信介 國實瑞惠
プロデューサー:小西啓介 小川真司 山田真史 鈴木徳至 協力プロデューサー:後藤 哲
撮影:米倉 伸 照明:秋山恵二郎 録音:小畑智寛 リレコーディングミキサー:野村みき 編集:長瀬万里
美術:小林 蘭 装飾:前田 陽 スタイリスト:髙山エリ ヘアメイク:河本花葉
助監督:平波 亘 制作主任:宮司侑佑 音楽:渡邊琢磨
制作プロダクション:ブリッジヘッド コギトワークス
『ナミビアの砂漠』
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
2024年9月6日(金)公開
©2024「ナミビアの砂漠」製作委員会
公式サイト