「イメージが古いのかもしれませんが、『底辺校』と呼ばれる学校は不良や反抗的な子が多くて暴れて授業ができないというような感じだと思っていました。悪意を持ってガラスを割り、悪意や意志を持って授業妨害をする生徒が多いと思っていたのですが……」
雅美さんは、「その方がマシだった」とでも言うような口ぶりだ。
「ガラスは割りますし、授業妨害や授業放棄のような行動は取りますが、そこに『意志』が存在しません。後先考えずに教室内でボールを投げてガラスを割る、休憩時間のおしゃべりが楽しかったからチャイムが鳴っても大声で話し続ける、眠いので授業準備を一切せずに寝るといった感じなんです」
雅美さんの口調は重い。
「したいことは何もないし、したくないこともさしてない。周りが毛を染めているから染めたし、みんなが耳に穴を開けているから開けたという状況で、『校則違反だ』といわれても何も感じていない。強く指導されると、嫌な気持ちにはなるようですが、そういう『不快感』だけで終わっていきます。今や私は、拒否や否定でも構わないので、強い感情がわき上がらないかと願っています」
そう話す雅美さんは、いくつかの対策を講じ、手応えを得ることもあったそうだ。
彼女のとった方法は、一人一人としっかり話をすること、そしてどんな些細な事象でも褒めること。
「簡単に学校を休んでしまう子も多いので、まずは学校に来たことから褒めました。『そんなこと……』と思われるかもしれませんが、本当に、そこから褒めなければならいけないというのが現状です。
彼らは、学校に来ることに楽しみも意味もないので、少しだるい程度でも簡単に休む。そして、休むことに何の抵抗もないし、何人かでお互いが休んでいることを確認し合って安心しているんです」
雅美さんはそんな子どもたちと話し、褒めることで、学校に来る意義を作り出そうとしたのだという。
「学校を休むからといって、家の方が居心地はいいというわけではない。それは、どの子と話していても感じます。だから、『学校に来た方がうれしいことは多い』と思ってもらえないかなあと考えて『褒める』ことと『個人的に話す』ことを実践しました」
その結果、楽しそうにする生徒も増え、積極的に話しかけに来る生徒も増えたそうだ。
「話の内容は、たわいないものばかりだし、日本語も整っていませんよ。何を言っているのかを理解するために頭をフル回転させなければならないこともあります。それでも、私は、彼らが自分から何かを発するようになったことは進歩だと思っていますし、うれしいんです。でも、それ以上は難しい」
雅美さんは、自分の担任する生徒のうちの半数近くがやや前向きになってきても、根本的な問題は解決していないと考えている。
次回は、もう一人の教師の話をもとに、教育格差が生んだ根深すぎる問題について伝えていく。
取材/文:八幡 那由多