「ねえ、アイミちゃん、聞いた? 店長とカナちゃん、結婚したんだってよ!」
その一言から、アイミの人生の歯車は狂い始めた……。
※この記事は取材をもとに構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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常連の高田(仮名)が、店長の結婚のことを大声で騒ぎ出した。都内で人気のBARを営む店長フミト(仮名・45歳)は、ほかの客の対応をしながらも、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「え! フミトさん、いつの間に? おめでとうございます。えー、びっくりしたぁー」
アイミは強張る表情を自然に隠しながら、追加の瓶ビールをオーダーする。
アイミ(仮名・33歳)は3年前に離婚し、この街に引っ越してきた。その頃から週に2~3回はフミトが営むこの店を訪れている。
その日、アイミは常連客と時折言葉を交わしながら、約1時間ほど飲んで店を出た。いつもは閉店間際まで長居するのに早く席を立ったことで「体調でも悪いの?」とフミトに心配された。
「全然大丈夫~。今日はちょっと疲れちゃったからお先に。フミトさん、また来ますね~」
店から自宅までは15分ほど。家に着いたアイミは荷物を足元に放り投げて、急いでスマホを取り出す。

©️gettyimages
アイミが開いたのはフミトのInstagramアカウントだ。お店の宣伝用にたまに使っているくらいで、頻繁には更新されていない。アイミは、フミトのフォロワーから「カナ」のアカウントを探す。
「見つけた」
アイミは小声でつぶやく。
そのアカウントを開いた瞬間、アイミは自分の手がとんでもなく震えていることに気づく。
『ご報告。この度、素敵な方と結婚することになりました。それから、新しい命も授かっており夏には産まれる予定です。』
カナのInstagramには「おめでとう!」と多くの祝福コメントが書かれている。ヨガのインストラクターをしているらしいカナは、女性から見てもセクシーで美しい。アイミも店で何度も会ったことがある人物だった。
「なんでなの? 許せない……!」
アイミは悔し涙を流しながら独り言をいう。
アイミはずっと店長のフミトに好意を寄せていて、フミト自身も気づいていたはずだった。とは言っても、店主と客という関係以上のことは全くなく個人的な連絡先も知らない。
それでもアイミは店長が自分にかける言葉や視線から、向こうも好意を抱いているに違いないと感じていたのだ。
「この女。なんなの。店長は騙されてるに決まっている。私がこの女の化けの皮をはいであげないと……」
アイミはカナのInstagramをくまなくチェックし始めた。そして、カナのお腹のなかにいる子どものことで、予想もしなかったとんでもない秘密を知ることになる。