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「骨盤歪んでますよ」でバキッ! パーソナルトレーニングにデタラメ解剖学が跋扈する「恐ろしいカラクリ」

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「あの声で とかげをくらうか ほととぎす」 この世の森羅万象のウラ側を、FORZA STYLEの取材班が徹底取材。あなたの暮らしを守る、独自レポート。

令和4年4月、国民生活センターが「パーソナル筋力トレーニングでの危害に関する相談が、2017年度以降の約5年間に105件寄せられており、その4人に1人は治療に1カ月以上を 要し、中には『神経・脊髄の損傷』、『筋・腱の損傷』をした人もいる」という注意喚起を行った。

パーソナルトレーニングジムなるものをよく見かけるようになったのはここ5年であり、そしてそれらの多くが「あなたの身体にあったトレーニングを」ということをうたっている。

なぜケガが生じるのかと言うと、その「あなたの身体にあった」を見抜くことが難しいからだろう。そして、その「あなたの身体にあっている」ということを顧客に納得させるために積極的に用いられているのが「解剖学」という言葉だ。

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「私はただのヨガインストラクターなのですけど、行く教室によっては勝手に『解剖学ヨガ』とか『骨盤ヨガ』というタイトルをつけられます」

そう話すのは、フリーのヨガインストラクターとして、いくつかのスポーツジムやダンス教室でヨガを教えている紗英さん(仮名)28歳だ。

「たしかに、骨盤などにいい影響を及ぼすポーズもありますし、解剖学的にヨガを開設しているYouTubeチャンネルなんかもありますけど、私は、ヨガをして心地いいなあという気分を味わうことが一番だと考えているので、あまり骨とか筋肉の話をしたくないって言うのが本音です。でもまあ、『骨盤』とか『解剖学』ってつけた方が集客力アップするらしいので、仕方がないですよね。ただ、名乗っているだけで実質が伴っていないなんていう詐欺的なことになってはいけないので、必死で勉強しましたけど……」

そういって紗英さんは苦笑いする。

「お医者さんではないし、専門的に学んだわけではないので、不安です。ネットなどの情報もどこまで本当なのかな……と思うと、怖いですよね」

紗英さんの不安は当たっている。

「『骨盤がゆがむ』」という言葉を聞いたことがない人は今やいないのではないかと思うほどに、『骨盤のゆがみを整える』ためのトレーニングや下着なんかが世に出回っています。でも、『骨盤』というのは大きな骨ですからね。それ自体がゆがむなんてことは基本的にない。周囲の筋肉の片方だけが固くなっている状態を『骨盤がゆがんでいる』とうたっているのでしょうね。」

と言って笑うのは、理学療法士である美穂子さん(仮名)58歳だ。

「『解剖学』で筋肉や骨の様子を知った上でトレーニングやヨガをするという発想そのものは悪くないのですが、『解剖学』のテキストに載っている通りの骨格の持ち主や筋肉の持ち主はいませんから、そこを踏まえずに『パーソナルトレーニング』なんていうのは、意味がないでしょうね。」

美穂子さんはにこやかだが少し、厳しい目をしてそう言った。

そして、その空前の「解剖学ブーム」は、「大人のバレエ」でも起きており、「解剖学レッスン」などとうたう超高額レッスンが存在しているそうだ。

©GettyImages

「大人からバレエをはじめられた方は、早く上達したいとお考えの真面目な方が多くて、レッスンも週に3度でも4度でもいらしてくださいます。お家でYouTubeなんかもご覧になって『こうした方が回りやすいって有名なバレエダンサーの方が言っていたの』とか『こうした方が、体が柔らかくなるって有名な整体の先生がおっしゃっていたわ。』とか教えてくださいます。

なんとなく続けている子どもたちや、他のことに興味が出てきた高校生たちよりも熱心で前向きな大人バレエの方々のレッスンの方が楽しくなってしまうことも多くて、私も一生懸命、みなさんが上達される方法を考えながらレッスンしていたのですが……」

にこやかに話していた梨花さん(仮名)30歳の顔が曇った。

「ある方が、『解剖学レッスン』というものを受けに行かれてから、あまり調子が良くなくて……」

彼女のレッスンを受けている50代マダムは、とにかくレッスンが楽しくて、ミスや間違いもよくするけれどのびのびと踊る姿が魅力的な女性だった。

「Mさんとおっしゃる方なのですけど、すっかりその『解剖学レッスン』にハマったみたいで。ただそのせいで、今までの伸びやかな踊りを失ってしまわれました」

梨花さんは悲しそうに言葉を切る。

Mさんが通い始めた「解剖学レッスン」は、筋肉や骨の説明を受けながら体を動かすというものらしい。

一般的なバレエ教室も運営しているバレエ講師が、Mさんの体を触りながらマッサージ的な施術もしつつ、鏡の前でバレエをするMさんの身体を見て、「ここはゆがんでいる」「この筋肉が使えていない」「この筋肉を潰して踊り続けていると、あと3年ほどで踊ることのできない体になる」などの言葉をかけてくるそうだ。

アロママッサージの資格を保持しているバレエ講師がその「解剖学レッスン」の講師であるそうだが、解剖学については「好きすぎてハマっている」という程度。

「私も、『解剖学レッスン』というものがあることは知っていたのですが、どんな内容なのかまではあまり知りませんでした。Mさんのお話を聞いていると、そんな医学的な資格もないのに『解剖学』って名乗ってもいいのかなという疑問もわくし…でもまあ、バレエ講師自体、資格がなくて名乗ればなれてしまうものなので、そこは私が指摘すべきところじゃないのかもしれませんけど……」

衝撃の後編に続く。

取材/文 八幡那由多

▶︎後編に続く


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