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フェイクニュースの詐欺師たちが利用する「マルインフォメーション」とは?

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

すべてはホントでウソなのよ

ここ数年、企業のエイプリールフール「ネタ投稿」が盛り下がり気味です。以前は手間とコストをかけ渾身の一撃を投稿していましたが、強烈なドすべりをかましたり、洒落の通じない人を激怒させたりと(今年も気の毒なアイドルが、LGBTネタで謎のバッシング被害に……可哀そう)、企業的には「リスク取ってまでやるもんじゃないよね」という温度感なのでしょう。

そしてその翌日、4月2日は「ファクトチェックの日」だそうな。知らなかった。ウソの翌日は「真実の日」ということでしょうか。もちろん真実の見極めはメッチャ大事なんですが、この真実というヤツ、実は相当に厄介でして、そもそも世の中は「ホント」と「ウソ」の2択じゃない。そんな単純じゃないですよね。例えばこの2つの文章。

【1】国連によれば、福島は未だ危険な状況にあり、子供や出産年齢にある女性はまだ福島に戻るべきではないそうだ。

【2】国連によれば、福島は安全な状況にあり、原発事故の汚染に起因する健康被害も発生していないそうだ。

東日本大震災後の福島における放射能汚染について、主張の全く異なる2つのご意見ですが、面倒なことに、実はコレどっちも正しいんですよ。

まず【1】は2018年に「国連人権理事会」の特別報告者が提出した報告書。明確に「子供や若い女性は福島に戻るべきではない」と述べています。続いて【2】、これは2014年に提出された「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」による報告書。そもそも原発事故に起因する健康被害は発生していないそうです。

【1】【2】いずれも実在する国連名義の報告ですよ。どういうこと?

特別なお気持ち表明

ネタばらしすると、科学的には【2】が正解。数十名の専門家による科学的な検証、根拠の提示に基づく調査報告です。じゃあ【1】は何なのかと言えば、ズバリ国連から指名を受けた特別報告者(専門家とは限らない)の独自調査と独自判断による独自のお気持ち表明。特別報告者の見解は国連の見解ではない、とされているので、どちらが信用に値するのかは言うまでも無いでしょう。

この情報を見極めるには「ひとことで国連と言っても、玉石混淆のゴッタ煮だし、特別報告者って稀にトンデモ報告でっち上げることあるよね(別件では「日本の女子高生の13%が売春している」と報告した報告者も。もちろん事実無根で外務省が激怒、後日撤回)」を知っている必要があります。

が、国連機関がそういった報告書を公表している、という点においてはどちらも事実なんですよね。どっちもホント。だから【1】を「信じたい」人は「事実」としてその情報を選んでしまう。記載されている字面だけなら事実。実に面倒くさいのです。

水だって過剰に摂取すれば、腎臓が対応できずに「水中毒」という症状を引き起こす。これ最悪の場合は死んじゃうのですが、フェイクニュースの詐欺紳士たちはこれを利用し、

「人間は水を飲むと死ぬ」(←間違いではない)

こんな「ホント」でも「ウソ」でもない言葉のマジック、「マルインフォメーション※」と呼ばれるフェイクに仕上げるのです。

※マルインフォメーション:事実だけど悪意を伴う意図的な情報

ちょっとしたエビデンスの確認だけでは、フェイクを見極められないこともある。なかなかキツい話ですが、詐欺師はそこを突いてきます。「マルインフォメーション」という言葉を知っているだけでも、フェイクニュースに対する防衛力がちょっと上がりますから、名前だけでも是非覚えておいて下さいな。


Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)
※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。



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