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【後編】「税理士が認知症?」高齢化社会が直面している「おぞましい暗部」

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当日、後輩の女性調査員とともに、鵜飼氏が指定した立花氏の自宅最寄り駅近くにある喫茶店へと向かった。

少し軋む、重たい木製の扉を開けると、すぐ目の前のテーブル席で、どちらも60代後半〜70代だろう、白髪で丸顔の男性と、髪の極めて薄い面長の男性が、扉の方を向くかたちで、ちょこんと並んで座っているのが見えた。

2人は、店に入って来た我々に気がつくと、面長の男性の方が立ち上がって、我々に会釈した。

「ご連絡ありがとうございます、鵜飼です」面長の男性が、鵜飼氏だった。

鵜飼氏に導かれるように、2人が座っていたテーブルまで進むと、丸顔の男性が座ったまま我々を見て、子供のように満面の笑みを浮かべていた。

「こちらが立花税理士です」鵜飼氏が紹介すると、立花氏は、「昔はね、私もね、事務所で何人か事務員を雇ってね、まあ、色んな会社やね、自営業の人の仕事を請け負って……」

立花氏の唐突に始まった自己紹介に、我々が目を丸くしているのに気がつき、鵜飼氏がやんわりと遮る。

「立花先生はね、本当に立派な税理士です。私は行政書士なんですが、足のお悪い先生に代わって、事務員みたいな事をやらせていただいてるんです。」

確かに、立花氏の座る椅子の横にある柱には、1本の杖が立てかけられていた。「昔はね、私もね、事務所で何人か事務員を雇ってね、まあ、色んな会社やね、自営業の人の仕事を請け負っていましてね、今では、鵜飼くんがね、何でもできるから、助かってます」立花氏が、また、満面の笑みで話し始める。先程と同じ台詞だ。

「そうなんですね! 今は、税理士のお仕事も、鵜飼さんが中心になさっているのですね」わざとすっとぼけて、後輩が尋ねる。

「そんなことないですよ、あくまで私はお手伝いです」鵜飼氏が慌てて、そう言い終わるか終わらないかのうちに、また立花氏が話し始めた。

「昔はね、私もね、事務所で何人か事務員を雇ってね、まあ、色んな会社やね、自営業の人の仕事を請け負っていましてね、今では、鵜飼くんが……」

結果的に、およそ40分にわたる面談の中で、立花氏は、何度も何度も、同じ台詞を繰り返した。それは、回数といい、タイミングといい、明らかに健常者のものではなかった。

逆に、鵜飼氏が、立花氏を我々に会わせた勇気に関心するほどだった。



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