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岸田総理の「ウクライナに必勝しゃもじ」は、なぜ心をざわつかせるのか

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

勝ってはいけない? 看板しゃもじ騒動

先週末からのネット界隈は「しゃもじ」で殴り合う人々で溢れ返っておりまして、岸田総理がウクライナに持参した手土産の看板しゃもじ(広島の民芸品)に

「必勝」

と書かれていたのはけしからん、だそうです。なるほど、戦地にしゃもじを持って行っちゃうセンスはともかく、平和ですね日本。

SNSの「必勝けしからん」勢のご意見は、概ね「ウクライナの勝利を願うのは不謹慎」「早期終戦、人命優先」という感じですが、でもそれって、領土を奪われ国民が殺されても、譲歩して妥協して早く戦闘を終わらせろっていう意味ですよね。家を放火されて家族を殺された家主に向かって「このへんで手を打て」「和平を」と諭すようなもんですけど、それでいいんでしょうか? もっと言えば、それが後の世界でどんな意味を持つのか、少し考えた方が良いです。

言うまでもなく、世界中の国々がこの戦争のゆくえを注視しています。もし「今後2~3年のうちに●●に侵攻したい、実行したい」と本気で考えている国があれば、当然、今回のロシアの動きを自国に置き換え、

・世界はどう動くか
・侵略者に有利な停戦は実現可能か
・SNSでどれだけ世論誘導できるか

このチャンスを利用して、めっちゃロシア目線で検証するでしょう。意図をもって仲介役を買って出るかもしれません。いわば壮大な実証実験です。核兵器を持った大国、しかも国連の常任理事国でもあるロシアが、ヤクザ並みの言いがかりで他国の領土を奪う。そんな試みが成功すれば、「じゃあウチも」という国が現れる(当然「それ」に日本が巻き込まれる可能性は高いです)。そういう意味でもウクライナ侵攻を成功させてはダメなのです。

フェイクニュースってどんな顔?

国境を超え、ネット上にバラ撒かれるフェイクは「ロシアは正義、ウクライナが悪い、なぜなら~」なんてアカラサマな内容ではありません。もっとソフトで拡散しやすく、受け入れやすいモノ。たとえば

「ロシアも悪いけどウクライナもね」
「そろそろ戦争は終わらせるべきでは」

みたいな、特定の層に刺さって、拡散してくれそうな投稿だったりします。フェイクニュースはフェイクニュースの顔をしていない。流暢な日本語も日本国民が書いたとは限らない。当たり前ですよね。

またどういう連中がフェイクに喰い付きやすく騙されやすいか、誰に喰わせれば拡散させてくれるか、今はそういった知見を蓄積できるチャンスでもあります。私たちは複数の国々が入り乱れるSNS情報戦のド真ん中にいるのです。

それなのに国会議員までもが青筋立てて「しゃもじ!しゃもじ!」と騒いでいる姿、世界にはどう映るんでしょうか。

酒を酌み交わし

以前、日本のある若者が「もし外国が攻めてきたら、とことん話し、酒を酌み交わし、食い止める。それが本当の抑止力だ」と主張し、強烈にバカにされていましたが、そりゃそうです。射殺されるか捕虜になって皆に迷惑かける未来しかない。いやいや、それは例え話であり、「外交努力」という意味だ、なんて方もいますが、ならば今回のウクライナ訪問こそ外交努力でしょう。

世界に対する、日本は侵略戦争を認めないという意思表明。将来どさくさに紛れて日本の領土が侵攻された際、早期に支援してもらえる確率を少しでも上げるための、武力を伴わない外交努力です(それでも「しゃもじ」はどうかと思いますが、岸田さんって「千羽鶴」とか持参しちゃいそうな怖さがあるので、まだ「しゃもじ」で良かったの……か)。

日本には、核兵器を抱えてやりたい放題の隣人がいます。SNS情報戦の戦場でもあります。身内同士、しゃもじで殴り合っている場合じゃないですよね。


Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)
※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。



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