「主人に言われて、心療内科にも通っています。ただ、薬を飲んでも一時的に良くなるだけです。主人は、私が具合が悪そうにしていると、自分まで機嫌が悪くなります。だからなのか、ますます帰りが遅い日が増えて、休日まで出張が入るようになって。おかしいですよね。絶対に、おかしいってわかっているのに……。」
聡子はまだまだ心中を吐き出してしまいたい様子であった。しかし、敏史が息を切らしながら予定よりも早く席に戻って来たために、聡子は再び黙って俯いてしまった。何かを察したのかわからないが、敏史は聡子に向かって
「何を話していたんだ?」と、探るような眼で尋ねた。
「家の中で、電磁波の影響を受けていると感じる場所は他にありますか?」
遮るように、上司が聡子に尋ねた。
「日によって違うんです。リビングで具合が悪くなる時もあれば、玄関先でなることもあります。」
聡子が言い終わるのを待っていたかのように、敏史が口を挟む。
「その度にネットで買った電磁波測定器で調べますが、特に数値が高いというわけでもないんです。」
「それでは、小田様のお宅がどのくらい鉄塔からの電磁波の影響を受けているか、一度電力会社に調べていただきませんか?」
上司がそう提案すると、敏史は目を丸くした。
「電力会社がそんなことをしてくれるんですか?」
「はい。電話一本でお願いできます。あと、今はネット通販で、電磁波防止グッズなんかも売っています。但し、それについてはどのくらい効果があるか弊社で保証することは出来ませんが。」
そう言いながら、上司は既に電磁波対策グッズ販売のサイトをいくつかスマホで開いて、2人に見せた。
「電磁波をシャットアウトできる蚊帳みたいなものもあるんですね?」
敏史は興味津々でサイト内の商品に見入っていたが、聡子は、どこか他人ごとのような表情でぼんやりと画面を眺めているだけだった。