前編はこちら
「せめて私と娘の為に財産くらいは残して欲しいんです」
依頼者から渡された、家の土地家屋の登記簿謄本を確認すると、どちらも夫の名義になっている。
「以前から、せめてこの家だけは私の名義にして貰えないかと頼んでいるんですが、聞き入れてくれません」
依頼者が娘の手を握りながら言った。
「生活費は毎月少し振り込まれます。娘と2人ですから、今は何とかなります。 ただ、私はもう高齢です。いずれ娘は1人で生きて行かなければなりません。娘はこのように障害がありますし、数年前に足も悪くして働く事が難しいんです」
そう言いながら、依頼者は娘の足を撫でる。 娘はこれまでに何度か言葉を発していたが、タイミングも内容も全く的を得ておらず、彼女の発言に対して、こちらも何と返して良いのかわからず流すかたちになっていた。娘はそれが不満なのか、その度に苦虫をつぶすような顔でこちらを見る。その様子からも、依頼者が心配するのは当然のように思えた。
「もちろん、私の両親も長年心配してくれてますから、遺産は幾らか入るでしょうけど。親の事業は兄が継いで、家族で両親と同居しています。私と娘が今更世話になるわけにはいきません。それに……」