久々のA子との仕事帰りの飲み。一杯目のハイボールを飲み終えた後、A子は言った。
「言ってなかったんだけど、私ね……来月会社辞めるんだ」
騒々しい店内のせいで聞き間違いかと思ったが、一旦話を聞いてみることにした。
「実は寿退社ってやつなんだけど、営業部の4つ年上の先輩と結婚するんだよね」
言葉を発することができずただA子の首あたりをぼーっと見つめていたノゾミさんは、しばらく経ってから、なぜ結婚することを教えてくれなかったのかと尋ねた。A子は気まずそうにテーブルに視線を落とした。
「ノゾミは絶対悲しむでしょ? だからなかなか言い出せなくて……
実は私、昔付き合っていた人にストーカーされてて。課の飲み会の時に、たまたま彼に話したら、親身になって助けてくれたんだ。黙っててごめんね、今度なんかあったら絶対一番に相談する」
肩を震わせていたA子に、ノゾミさんは慌てて謝罪した。結婚云々よりも親友が悩んでいることに気づけなかった自分に失望したと同時に、友人を失う恐怖が押し寄せてきた。
幸い、A子が会社を辞めた後もノゾミさんとA子の交流は続いた。時にはA子の夫と3人で出かけることもあったという。
<結婚っていいなって思いました。そんな時に、地方に転勤していた私の彼氏が転勤で東京に戻って来たんです>
願ってもない幸運に、ノゾミさんの心は膨らんだが、皮肉にも、この彼氏の転勤が、A子のサイコパスとしての本性を露わにするきっかけとなったのだ。
大手商社に勤めるノゾミさんの彼氏は、向上心と正義感の塊のような男性だったっという。ノゾミさんは上京してきた彼氏と、ノゾミさんの家で同棲を始めた。
「今度はノゾミの彼氏と私たち夫婦4人で遊ぼうよ」
最初にそう誘ってきたのは、A子だった。
土曜日によく集まったその4人の会は楽しく、幸せな時間だった。しかし、その会も各々の繁忙期が入れ違いになり、4人が一堂に会する頻度は少なくなっていく。
最初の異変は、ノゾミさんの彼氏が珍しく遅く帰ってきたことだった。彼の帰宅が日付をまたぐことなど滅多にない。
「遅かったね」
思い切って声をかけると「連絡しただろ」と不機嫌に返された。
冷たい態度に戸惑うノゾミさんに対し、彼は何も言わず風呂に入るとそのまま眠りについてしまった。
その後も彼の帰宅が遅くなることが続き、休日には行き先も言わず外出することがあった。不安になったノゾミさんはA子に相談すると、衝撃の返答があった。
☆サイコパスの闇に迫る、次回へ続く☆