あの男とは、ミサキが大学当時にバイトしていたファミレスの店長、藤原マコト(仮名)である。
誰に対しても別け隔てなく接するマコトに対し、ミサキはいつものように遊び感覚で近寄った。
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ミサキには自分の若さと美しさに対して絶対的な自信があった。自分がその気になれば、どんな男でも夢中になる。
しかし、マコトはミサキをまったく相手にしなかった。ボディタッチはスルーされ、わかりやすくアプローチしても冗談としてかわされてしまう。
話題といえば、奥さんや子どもの話ばかり。明らかに脈ナシであることを突きつけられた。それがミサキの自尊心を傷つけ、ミサキは意地になった。
寝ても覚めてもマコトのことを考え、メッセージの事務的な返信を眺めながら眠りについた。
「全然相手にされなくて……話題も奥さんとか子どものことばっかりでさ。なんかつまんないって思って。あんなおじさん、興味ないし」
当時のミサキが空になったコップのストローをくわえて拗ねたように言う姿を、ユミは(そのまま一生興味もたなきゃいいのに)と思って見つめていた。
そして、バイト先での飲み会をきっかけに、ミサキのマコトへの気持ちはさらに燃え上がっていく。
「ずっと思っていたんだけど、橋本さんは仕事ができて周りを思いやる心も持っているんだから、もっと自分を大切にした方がいい」
バイト先の男性に対して、からかうようなことを言っていたミサキをたしなめての言葉だった。
酔って頬を赤くしたマコトの言葉は、ミサキの胸にまっすぐに響いた。全身が熱くなり、初めての感覚が体を駆け巡る。
外見や表面的な性格以外を褒められたのは初めてだった。この人がほしいと本気で思った。
この人は外見じゃなくて、自分そのものを見てくれる。
そのまま飲ませて、一気にしかけようかと思ったが、さすがにそれは失敗した。
ミサキはその後もマコトへのアプローチを続けた。女として見てもらおうとすると軽くあしらわれるが、身だしなみやちょっとした変化をいつも褒めてくれる。
そのもどかしさに、ミサキの思いは強くなるばかりだった。
ある日、ミサキが「仕事のことで相談がある」とマコトを食事に誘い、真剣に思いを伝えた。そして、ミサキが押し切る形で2人は関係をもつことになる。
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今までミサキの若い体と美貌に夢中になっていた男たちと違い、マコトはどこまでも優しくミサキに触れ、そして何度もミサキの体を喜ばせた。
「今までの男はなんだったのって思っちゃった。きっと、これが初恋なんだって」
そう言ってとろけるような笑顔をみせるミサキを、ユミもさすがに「いや、その人、既婚者でしょ」となじってみせた。しかし、ミサキは「そうよ」と言って取り合わなかった。
あの男とまだつながっていたなんて。そして、その男の「差し金」で別の男と結婚したなんて......。
ユミは吐き気を催すような暗い気持ちで、ミサキの衝撃の「結婚経緯」を聞くしかなかった。衝撃の事態では、その「人としてあり得ない経緯」を詳報したい。
Text:FORZA STYLE