探偵が依頼を受ける中で、陥りやすいことの一つに「ストーカー幇助」がある。
単なる人探しのつもりで受けた依頼が「蓋を開けてみたらストーカーの手助けをしてしまっていた!」なんて事が残念ながら起こり得るのが現実である。
例えば、1999(平成11)年に起きた「桶川ストーカー殺人事件」は、女子大学生が元交際相手の男を中心とする犯人グループから嫌がらせ行為を受け続けた末、JR東日本高崎線桶川駅前で殺害されたという痛ましい事件だ。
本件の発生が契機となって2000年には「ストーカー規制法」が制定されるなど、ストーカー被害への対応が改めて見直されるきっかけとなった事件でもあった。なんと、この事件の加害者側には興信所が加担していたそうだ。
探偵が「ストーカー幇助」に陥らないためには、依頼を受ける時点での見極めが必須だろう。そのためには、常にこう問いかける必要がある。
「その調査結果を、どのように利用しようとしているのか?」
特に異性を探したいという依頼者には、しつこいほどのヒヤリングをする必要がある。残念ながら、依頼者が嘘をつく場合もあるので、言葉の裏まで読むつもりで真意を見極めなくてはならない。調査対象となる相手に一方的な恋愛感情や執着を抱いている気配を少しでも感じた場合は、断ることが、最大の「ストーカー幇助防止」に繋がる。
ただ、目の前に高額な報酬をちらつかせられると、つい魔が刺すというのも人間だ。
だからこそ、私たち探偵や興信所は、常に自分達の受けた調査の結果が、その後、調査対象者や周囲の人々に対して、どのような影響を及ぼすのかを想定し、自分達の行動を厳しく管理する必要がある。
過去に合った事例を紹介しよう。依頼者は九州在住のIT系企業勤務30代男性。色白で韓流系のイケメンですが、少し冷たい感じのする人物。現在、単身赴任中で、妻は東京で別居している。
「東京で暮らしている妻と、急に連絡が取れなくなってしまったんです。最近忙しすぎて、東京にはほとんど行くことができなくて。ここ最近は、電話をしても妻が応答せず、何かあったのではないかと心配なんです」
「警察には相談されましたか?」
「いえ、事件性がないと警察は動いてくれないと聞きましたので。」
確かに、一理ある。
「とにかく、無事であることを確認したいし、今後の生活について直接、東京で妻と話し合いをしたいんです。どこにいるのか確認していただけませんか。」
「もちろん、奥様の東京の住所はご存じですよね?」
そう確認すると、男性は少し眉を顰めた。
「それが、数か月前、引っ越すと言っていて、部屋が決まったら知らせてくれるはずだったのですが。」
引っ越し先をご主人に伝えないなんて、怪しい。そう内心思うところがありながらも、調査依頼を引き受けてしまった。
依頼者の妻の前住所である東京のアパート周辺で張込みしていた結果、妻が軽トラで家具などを業者に運ばせている現場を目撃した。自転車で移動を始めた妻を車で追尾した結果、彼女は入り口に受付のある、普通とは少し雰囲気の異なるマンションに入っていった。その場でマンション名をインターネット検索したところ、そこがDV被害等を受けている女性のためのシェルターだと判明した。
妻と連絡が取れないと嘆いていた夫は実はDV男で、行方をくらました妻を探し出そうとしていたのだ。ストーカーは、探偵を利用するという姑息な手段を使ってでも相手に迫ろうとする。
次回では「死ぬまでに一目、初恋の人を探したい」と依頼してきた高齢者ストーカーの事例を紹介しながら、ストーカーの傾向と対処法についても詳報する。
Text:児玉総合情報事務所 こころたまき