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LIFESTYLE 新田龍の「コンプラ総研」

ブラック企業はなぜ減らないの? 専門家が語る「御恩と奉公型」日本社会のヤバすぎる闇。

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いま、日本企業はさまざまな難問を抱えているが、その本質をきちんと把握している人は少ない。そこで、我が国におけるブラック企業問題の第一人者・新田龍が、ブラック企業、ハラスメント、労務トラブル、問題社員、コンプライアンス、リスクマネジメント、炎上トラブル…など、あらゆるビジネスリスクを分析し解説していく。

「ブラック企業」という言葉が広く世間に知れ渡るようになってから、およそ15年が経った。

「労働環境が劣悪で、働く人が報われない会社である」との認識が共有できる状態となり、今や社会的にも「ブラック企業は悪」という認識が共有されている。

©Getty Images

しかし、そのような環境下でも依然として、ブラック企業自体はまだまだしぶとく生き永らえているのが現状だ。今回は、「これほどまでにブラック企業が問題視されているのに、いまだ根絶していない理由」を5つ取り上げて、問題を考えてみたい。

① 労働行政・司法の問題

① 労働行政・司法の問題。企業で何かしらの労務トラブルが発生した場合の解決策として「労働基準監督署(労基署)に駆け込む」というアドバイスがなされることが多い。

実際、労基署が扱う相談件数は毎年100万件を超えており、日々多くの労基法違反が発生している状況だ。令和元年度の数字を例にとると、労基署による調査が行われた「32,981事業場」のうち「15,593事業場」でなんらかの労働基準関係法令違反が見つかり、監督指導が実施されたという報告がある。

しかし、ここからが問題だ。これほどまでにブラック企業が問題視されながら、依然として多くの労務トラブルが後を絶たないのは、「違反しても企業にとっては大きな痛手にならない」ためだと考えられる。

実際、労基法に違反したところでめったに取り締まられることはなく、労基署の臨検を受けて違法行為が見つかっても、「是正勧告」がなされて書面を提出すれば終わり。労基署からの勧告を複数回無視するとようやく書類送検されるが、そこから起訴されることは稀であり、仮に起訴され、有罪判決を受けても、それに対する罰則の多くが「6カ月未満の懲役もしくは30万円以下の罰金」であり、法律とその運用がまったく抑止力になっていないのだ。

先出の令和元年度の数字をみていくと、なんらかの労働基準関係法令違反が見つかって監督指導が実施された「15,593事業場」のうち、書類送検に至った件数は急に減って「821件」となり、そこから起訴されたのは「333件」、裁判の結果、そのうちほぼすべて「332件」が罰金刑となり、懲役にまで至ったのはわずか「1件」のみ、という結果であった。

すなわち、現行法制における罰則は、意図的に違法行為を繰り返す企業側にとっては痛くも痒くもなく、なんら恐れるものとなっていないという構図がみてとれる。

② 日本独自の雇用慣行の問題

② 日本独自の雇用慣行の問題。日本企業と欧米企業の差異を表現する事例としてよく語られるステレオタイプに、「日本企業は長時間労働だが、欧米企業は残業もなく、ワーク・ライフ・バランスが充実している」「日本企業は少々サボっていてもクビになりにくいが、欧米企業ではアッサリクビになる」といったものがある。これはまさに、日本と欧米諸国の「雇用慣行」の違いを象徴的に表したものであり、昨今よく目にするキーワードとして日本企業は「メンバーシップ型」、欧米企業は「ジョブ型」として説明されるものだ。

ジョブ型とメンバーシップ型の違いは、一言でいうならば「人と仕事との当てはめ方の違い」と表すことができる。いわばジョブ型は「仕事に人を当てはめる」、メンバーシップ型は「人に仕事を当てはめる」やり方なのだ。

新田龍の【コンプラ研究所】Vol.13より

我が国独自の「メンバーシップ型雇用」では構造上、どうしてもブラック労働が最適化されてしまうリスクがある。なぜなら、メンバーシップ型はいわば企業との「白紙契約」のようなものであり、「長時間労働に文句を言わず取り組む」「いきなり遠隔地方への転勤を命じられても粛々と従う」「成果を挙げても平等性の観点から給料は変わらない」など、組織の指示がいかに理不尽なものであっても、それに従順に対応することが出世の近道になってしまう。

したがって、「ワーク・ライフ・バランスを確保したい」という意思は、メンバーシップ型の組織においては、「御恩」に対する反旗に捉えられてしまうことになるのである。

とはいえメンバーシップ型の組織でも、「雇用を守る」「年功序列で報酬を上げていく」という最低限の「御恩」を与え続けている限りは問題ない。その点、労働環境劣悪ないわゆる「ブラック企業」は、働き手に「奉公」を強制しておきながら、給料は上げず、挙句の果てには最後の砦となる雇用を守る気もないから非難される存在なのだ。

☆次回では、「お客さまは神様」という考え方や、コスパを重視する消費者、人口減や2015年の大手広告代理店の過労死自殺について触れながら、日本社会が抱える問題をさらに深掘りする。

働き方改革総合研究所株式会社代表 新田龍



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