怖くなった葵は走ってその場をあとにした。急いでスーパーで買い物をして、家に帰ろうとしたとき、帽子を深くかぶった男とすれ違った。
今のって圭吾? 振り返ると、その男はそのまま歩き続けていた。
よかった、圭吾じゃないか。と安心した瞬間、その男は曲がり角にまがったと見せかけてこちらに戻ってくる。下を向いたままだったから、まだ葵が気がついたことには気づいてないようだった。
葵は、走って近くにあるお店に入りとっさに隠れた。死角にはいり、覗き込むと葵の姿を探してキョロキョロしている圭吾がそこにいた。
見つかったらどうしよう。とその瞬間、携帯が鳴る。非通知だ。圭吾を見ると、誰かに電話をしている。圭吾はそのまま人混みに消えていった。
姉に電話をして、事情を説明し迎えにきてもらった。その日は、そのまま姉の家に泊まることにした。
翌日、家に帰ると近所の人に呼び止められる。
「昨日ね、不審な人がずっとうろうろしてたもんだから、警察に通報したのよ。それで警察が来てさ、その人捕まえてもらったんだけど」
「カバンの中に包丁が入ってたみたいなのよ。空き巣にでも入ろうとしたのかしらね。中山さんも気をつけてね」
©︎gettyimages
その話を聞いて葵は、震えが止まらなくなった。もし、あのまま尾行されていることに気がつかなかったら、もし、夫が海外に行ってなかったら、もし、子どもたちがまだこの家に住んでいたら。
運命の出会いだと思った相手が、狂気のストーカーになるなんて。葵はもう2度とショートヘアにはしないと誓うのだった……。
Text:女の事件簿調査チーム
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