専業主“夫”という言葉自体は一般的なものになっているが、実際に夫が専業主夫だという世帯はまだまだ少ないのではないだろうか。
その少ない実例である富田アキヒト(仮名)が専業主夫になったきっかけは、コロナだったという。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
「自分は大学時代から個人経営の居酒屋でバイトしていて。卒業後、自分からオーナーに希望して店長になり、常連さんだったいまの妻と結婚したんです。息子も授かり、コロナが蔓延する前までは、なんの問題もない生活でした。妻も、育休の期間が終わったらすぐに職場に復帰しましたしね」
しかし、コロナの影響で居酒屋の客が激減。オーナーが、店をたたむことにしたのだという。
「退職金はありましたが、スズメの涙で……。これは自分が悪いのですが、大学生活では勉強するよりバイトするほうが楽しかったので、ろくに資格も持っていないんです。だから、失業保険が切れたあとは、もう無収入まっしぐらでした」
とはいえ、選ばなければ仕事はあると思うのだが、妻はアキヒトが専業主夫になることを希望した。
「自分は、料理の腕に自信がありますしね。妻はどんどん会社で出世していたので、家事をやるよりも働きたかったみたいなんです。それは今も変わらないですね」
最初のうちは専業主夫という立場に抵抗があったアキヒトだったが、もともと性に合っていたのか、家庭はうまくいっていたという。
ところが、その円満な家庭を壊しかねない行動を、アキヒトはするようになった。
「今、息子は小学校二年生なんですが、コロナのせいで運動会を見に行ける保護者は、一家庭で一人だけなんです。昨年の一年生の運動会のときには、自分が見に行きました。そこで、お恥ずかしながら不倫相手の茜(仮名)と出会いまして……」
なんでも、茜のほうからアキヒトに声をかけてきたのだという。
「茜は、古い言い方だとヤンママっていうんですかね。まだ二十代で若く、派手な美人。三十代なかばのただのオッサンの自分にとっては、それだけで茜が輝いて見えてしまって(笑)。カメラの場所取りに苦戦していたので、すこしスペースを譲ってあげたのがきっかけです。私は望遠カメラを構えていたので、「うちの子も撮ってくださいよ」って頼まれて。「LINEで送ってくださいね!」って言われたときは、思わず、よっしゃー! って叫びたくなりました」
ただのオッサン、とアキヒトは自分のことを称したが、長年接客業をやってきたせいなのか、魅力的な印象を受ける。おそらく、茜もそうだったのだろう。
「最初のうちは、LINEで子育ての情報を交換したり、お互いの家庭の愚痴を言い合ったりする程度だったんですが……茜はすごく積極的で。『LINEだけじゃ物足りないので、直接会って話しませんか?』って言ってきたんです」
そして、茜と直接会ってからは、ごく当たり前のようにお互いの体の関係を結び、不倫するようになった。
誰かにバレるといけないので、待ち合わせは日中で、なおかつ遠くの場所にし、ホテルの駐車場にお互いの車で直接乗り付けるようにして情事を楽しむという。
「あまりにもうまくておいしい展開に、美人局を疑ったほどです。でも、そんなことはまったくなくて、ただ単に茜は遊びたいだけみたいです。自分も、家庭を壊すつもりはもちろんありません。いわゆる、セフレってやつですね。ハハハ」
何が面白いのか、アキヒトはそう言って笑った。
後編へ続く。