口から抜くときに気持ち良い! 圧倒的に浅い、木製スプーン
FORZA STYLE:ひさこ先生も僕もじつは愛用者で、それぞれ使い込んだ逸品を持ってきました。
ひさこ先生も愛用する、スプーン
ひさこ先生:本来は取り分け用のスプーンなんですが、わたしは炒める用の木べらとして使っていたので、かなり傷んで欠けてしまっていて…。
吉川和人:でも、これは樫で硬い木なんで耐えうると思います。あれ? 左利きですか?
ひさこ先生:はい。それで先日、京都のエッセンスにてお取り分けように新しいものを買い足しました。
吉川和人:アンティークみたいに味が出ていて、作り手としては嬉しいです。インスタでアップしてる写真拝見したときはブラックウォールナットかと思ったんですが、樫がここまで黒くなるとは思ってもみませんでした。油吸ってですかね。でも、イイ育ち方ですね。
ひさこ先生:お料理するとなったら、ほぼ使ってるので。乱暴なのがバレますね…。
吉川和人:やすりがけして、オイルを塗り込んでおきますね。使い込んで乾いてきたなと感じたら、えごま油かアマニ油を塗り込んで、2〜3日乾かしてから使ってみてください。
FORZA STYLE:じつは僕もこのスプーン買ってから、メインスプーンはコレ以外使わなくなりました。
吉川和人:本当ですか! ありがとうございます。こちらにもオイルを塗り込んでおきます。
FORZA STYLE:口に入れたときのストレスのなさ。引っかかる感じもないし、口当たりも滑らか。吉川さんのスプーンを使うようになって、より金属のスプーンと磁器の皿がぶつかる音が気になるようになって、他のが使えなくなりました。
吉川和人:日本人がスプーンでものを食べるときって、欧米人が口元で傾けて注ぐのとは違って、汁や半固形物を乗せて口に入れ、しごいて食べますよね。
そうなると口内から抜く過程がとても大事。そこに気持ち良さがないといけないから、他に比べると圧倒的に浅いつくりなんです。
FORZA STYLE:深いと、しごく際にサイド部分が当たるので、気持ち良くないですよね。
ひさこ先生:フレンチのレストランでも木のスプーンが出てくる機会も増えているような気がします。
吉川和人:料理業界の流れも変わってきていて、僕が作り始めた頃ってレストランでも木を使うのは、せいぜい板くらいでした。
ノーマ(NOMA)を代表するフュージョンが注目され出した頃から、料理の見せ方にこだわる方が増えてきて、洋風とか和風とかの括りではなくシェフ風な料理、盛り付けになってきましたね。
とくに彼らは見せ方、プレゼンテーションにこだわるので、使う食器の幅も大き広がったような気がします。
ひさこ先生:意外な作家さんの作品が使われてるのを目にする機会も増えました。
吉川和人:星付きレストランのシェフの方が買いに来てくださるんですが、数年前では考えられなかった。状況が一変している印象です。
ここまで変わると、また何かの影響で全然違う変化をしてしまう怖さもありますが…。
ひさこ先生:そこは心配しなくても大丈夫かと。悪い方に進んだり、戻るようなことはないと思います。
吉川和人:いままでって、作る側の都合が買う側に押しつけられていた気がするんです。企業の論理に合わせられていたというか。大量生産して薄利で儲けて、たくさん売るためにはコストを抑えて、最低限の品質だけは安定させる。
FORZA STYLE:そうなると、買う側がワクワクするようなものって生み出されにくくなりますよね。
吉川和人:かつては小規模な作り手は、おもしろいものを作れても届ける術が少なすぎたので、日の目を浴びる前に消えてしまうことも多かった。ところが現在は、SNSが充実したおかげで見つけて貰えます。
FORZA STYLE:見つけた側もDMなど、すぐに直接アプローチできるからチャンスはたくさんありますね。
吉川和人:良し悪しはありますが、僕にとっては本当にありがたいです。
ひさこ先生:いまの社会情勢などの影響で、木の原価も上がってますか?
吉川和人:そこまで大きな煽りは受けていないです。アメリカの木はドル高と輸送コストで高くなりましたが、他はそこまで。
FORZA STYLE:木工作家としてスタートしてから起こった変化や、今後こう変化していきそうな予感など、ありますか?
吉川和人:"良材"と呼ばれる、径が大きくて節がない材料を探すのは難しくなりました。日本の山は切り尽くされてしまったので手に入りにくいということはあります。
ただ、僕の場合は節があっても、ボコボコの木でも使うので、業者さんから「吉川さんの作る感じなら大丈夫」って言われてます。
ひさこ先生:笑
吉川和人:これからは、そういった材料を工夫して上手に使っていくのが大事になってくるでしょうしね。