静佳は髪はバサバサ、泣いて化粧も落ちかかっている混乱した顔で言った。
男性は名刺を出しながら「無事でよかった。もう手を離さないでくださいね。礼なんていいですよ。でも今度は娘さんの元気な姿見せてください」と微笑んだ。
娘を助けてくれたのは、消防士の雅士(仮名・42歳)だった。この日は休日で外出している途中に事故に遭遇。あの身軽な行動は、日頃救助訓練しているからこそ成せる技だったのだ。
静佳はすぐに雅士に連絡を取り、どうしてもお礼がしたいと食事に誘った。
雅士には結婚して10年の妻がいる。涼子(仮名)だ。雅士は子供が欲しいが、キャリア志向の涼子は子供を作ることにあまり前向きではないという。というのも、何回か不妊治療をしたものの子どもができなかったらしい。
不妊治療はとても高額で、体外受精なら1回40万円は当たり前。公務員だからといって気軽に何度もできる金額ではない。そのことも、涼子を後ろ向きにさせる要因の一つになっていたようだ。
夫婦二人の人生でも、それはそれで幸せなのかもしれない、と雅士が思い始めていたところで静佳と出会う
雅士と静佳と優は月に一度程度のペースで、一緒に食事をするようになっていた。
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