「ねぇママ、こんどの日ようびは、なんの日でしょーうか?」
由希子(40歳・仮名)夕食後の後片付けをしていると、小学校1年生の一人娘、花蓮(6歳・仮名)がクイズを出してきた。
「わかった! パパと3人で遊園地に行く日!」
「ピンポーン! かれん、ゆうえんち行くの、すっごく楽しみー!さらちゃんがこの前行って、すっごくおもしろかったんだって。パパもいっしょだよね。うれしいねー!」
花蓮の小学校の入学祝いとして、ずっと前から楽しみにしていた遊園地。パパのお休みがなかなか取れず遅くなっちゃったけど、ようやく今週末に行けるね。花蓮よかったねぇ。仲良しのさらちゃんが遊園地に行ったとか、旅行したとかいうお話を聞くたびに寂しそうにしていたもんねぇ。由希子は心の中でそっとつぶやいた。
「花蓮、もう9時になるから、そろそろ寝ようね。歯磨きした?」
「うん、はみがきしたよ! ねえママ、今日もパパおそいのかなぁ……」
〜ピンポーン〜
「はーい。あ、パパ〜!おかえり〜、かれんがいまドアあけるよー」
花蓮がガチャリとドアのロックを解除した。
「ただいまー。花蓮まだ起きてたのか。早く寝なきゃだめだぞ。でもパパはお姫様に会えてうれしいよ!」
夫である進(42歳・仮名)の帰宅は、いつも23時すぎ。大抵食事をすませてから帰ってくるが、今日はかなり早めの帰宅だ。ということは、家で食事するつもりだろう。
これから進の食事の支度をするとなると……。花蓮を寝かせた後に、明後日までのプレゼン資料作りたかったけど、明日早起きしてやるしかなさそう……。
「あ、そうそう由希子。今週日曜仕事になったから」
……え? 日曜って、花蓮が楽しみにしている遊園地の日、だよね?
「日曜は遊園地でしょ?仕事って、土曜日の間違いじゃないの?」
「いや、日曜。得意先の都合でどうしても日曜って言われてさぁ……。はぁ、またゴルフだよ。接待じゃなくて、たまには自由にラウンドしたいよなぁ」
その会話を隣で聞いていた花蓮が、泣きそうな顔をしている。しまった、どうしよう。せめて花蓮のいないところで話してくれれば良かったのに……。
「パパ、日ようび、いっしょにゆうえんち、いけないの?」
「あー、花蓮。ごめんね!そうなんだよー。パパ大事なお仕事入っちゃって。花蓮と一緒に遊園地行きたかったなぁ。でも、お仕事だから仕方ないよね。遊園地はママと一緒に行っておいで」
「……わかった。パパはおしごとがいそがしいんだもんね。かれんはママとゆうえんちにいってくる……。じゃあね、パパおやすみー」
「おやすみー、花蓮。パパ明日も朝早いから、今日花蓮が起きてるうちに帰ってこれて良かったよー。お勉強もがんばるんだぞ〜」
「はーい……」
由希子は進に気づかれないように、そっと小さなため息をつく。
「仕事だから」
アナタはいつもそういって言い訳ばかり。平日は「残業」「飲み」、そして、週末は「接待ゴルフ」。
私だって毎日フルタイムで仕事してる。でも花蓮の学童の時間があるから、平日は絶対に夕方で切り上げてるし、終わらない仕事は夜や早朝に家でやっている。
週末は仕事が入らないように事前に根回ししてるし、それによって仕事の幅が狭まっていることもある程度は仕方ない、と受け入れている。
なにより、花蓮が大事だから。花蓮の笑顔が見たいから。
この人のいちばんは、花蓮じゃない。家族じゃない。仕事、そして自分だ。
明日の朝、しょんぼりとしている花蓮の姿が目に浮かぶ。どうやってなぐさめようかなぁ。どうしたら楽しい気分になるかなぁ。締め切りの迫っている仕事よりも、こっちのほうがよっぽど重要だわ。
さっきの花蓮の悲しそうな顔。それににまったく気づいていない夫を冷めた目で見つめながら、由希子は忙しなく頭を働かせていた……。
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「仕事だから」と週末も予定を入れてばっかりの夫に不満があるという由希子さんからのお悩み。心理カウンセラーの五百田達成氏からのアドバイスは?
Text:FORZA STYLE