思いがけない出逢いが人生を変えることがある。普通ならどこにも接点がない二人でも、一瞬の直感を行動に移すことで、人生の景色が変わっていく。刹那的でも幸せな、そんな麻希の話をしよう。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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「すみません、これ落としましたよ」
九州出張で羽田空港へ向かう東海道線の上り電車。日曜日の早朝とあって人影はまばらだ。そんな車内で、ゆったり座りながら麻希(仮名・33歳)は経済情報をスマホでチェックしていた。
麻希はIT企業に勤めるマネージャー。企業のコンサルタントになりたいと、日夜仕事に励んでいる。夫とは2年付き合って3年前に結婚。まだ3年しか経っていないのに、もう何十年も一緒にいる空気のような存在になっている。
横浜で1人の20代ぐらいの男性が乗車してきた。
「なんと、爽やか系のイケメン。朝からちょっとラッキー」と思っていると、前を通り過ぎるときに、AirPodsを落とした。
麻希は近くに転がったAirPodsを拾って手渡すと、男性は「あ、ありがとうございます」と言って手に取り斜め前の席に座った。
なんてことのない、ごくごく普通のこと……。
その後麻希が携帯でSNSの情報をチェックしていると、視線を感じて目をあげた。するとさっきの男性がこちらを見ていて目が合い、思わず会釈をした。
ただ転がってきたAirPodsを拾ってあげただけなのに、麻希はなぜか顔が熱くなるのを感じた。こんなことでドキドキするなんて、バカな私。と思いながら。
電車が次の駅に着くと男性は席を立った。降りるんだな……、と思っていると、一枚の紙を麻希に差し出してスタスタと降りていった。
男性の思いがけない行動に驚いたが、きっとお礼の言葉が書いてあるのだろう。なんて律儀な人……。と思い紙を開いた。するとそこには「もう一度お会いしたいです」というメッセージと、彼の連絡先が書かれていた。
Text:女の事件簿調査チーム