初恋の人と再会
「突然の訪問で申し訳ございません。熊谷と申しますが、田宮さんはいらっしゃいますでしょうか?」
インターフォン越しに出た女性に要件を伝えると、その声の主が「代表でよろしいですね? 少々お待ちいただけますか」と述べ、通話を切った。
間もなく出てきた彼は、つい数日前に写真で見た彼そのものだった。
写真より少し日に焼けているかな……でもその分、引き締まった感じでカッコいい! 隣に連れているワンちゃんも、かわいい。
「あの……すみません、どういったご用件ですか?」
「私、熊谷です。突然来てしまったすみません! 田宮君ですよね?」
「クマガイ……クマガイさん……?」
しまった、熊谷なんて今の名前を彼は知る由がないじゃないか。
「市川です! 田宮君……ごめん突然、覚えてないかな、市川舞です」
「……市川舞さん。え? え?? うそ!?」
「嘘じゃないよ、市川です! どうしても会いたくて……」
彼とのこと①
©︎gettyimages
「ここにいるワンちゃんたちは、みんな虐待や飼育放棄を経験してきた子なんだ。なかでも最近多いのが、多頭飼いの崩壊。そんな可哀そうなワンちゃんたちを引き取って、きちんとまずはワクチンを打って、人間不信を取り除いた上で次の家族を見つけることが目標なんだ」
ウッド調の室内には、優に10頭以上の犬がいた。リビングから直接アクセスできる広い庭には、さらに3匹の大型犬。どの犬もあまり人なれしておらず、突然の来客に対し威嚇したり、あるいはおびえた表情を見せている。
「ちょっと庭に出て、座りながら話そうか」
気を利かせてくれたんだろう。彼は、私を庭のウッドデッキに案内した。
彼とのこと②
「それにしても、よくここがわかったね。夕張からとうの昔に引っ越しているのに」
「うん、実はね、探偵に調べてもらったの……」
舞はここに来た顛末を、事細かに話した。もちろん、田宮に会いたいと思うきっかけになった、夫の不倫の出来事に関しても包み隠さず話した。彼の前では隠し事はしたくない。正直な自分でありたい。
「そうか、舞もこの20年、けっこう苦労してきたんだね……」
そう語る田宮の目に、涙が溜まっているのがわかった。
私なんかのために泣いてくれるの?
25年間、私はあなたのことを忘れたことは一度もなかった。
「ねえ、田宮君、あの街から私を、連れ出して」
彼とのこと③
「オレは今は一人じゃなく、この子たちがいるから、申し訳ないんだけどここから移ることはしばらくできない」
「うん、わかってる! だから私、ここで一緒に暮らしていい?」
「でもご主人とは別れられないんだろう?」
「時間はかかるかもしれないんだけど、必ず別れる! 田宮君お願い、再会してすぐだけど、私のこと引き取ってくれないかな?」
「あの時、言えなかったことがあるよね。今言ってもいい?」
「え?」
「バレンタインの時に告白してくれたよね。オレ今でも実は、そのラブレター持っているんだ。『好きです』って一言だけ書かれた手紙。あの時の返事をしてなかったのが、25年経った今でも後悔してる」
少しの沈黙ののち、彼は舞の目を直視しながら、幾分震えた声でこう言った。
「あの時も好きだったし、今でも舞のことが大好きだ。舞が旦那と別れて、美瑛に来る日を首を長くして待ってる」