さまざまなコンプレックスや、やりきれない思いは、施術台で抱き合ううちに埋められていく。
「先生と会うと、心も体も潤っていき、みずみずしくなるような気持ちになるんです。でも、先生と別れて、自宅に帰ると乾いたような気持ちになってしまう」
不安が募ると、電話をかける。そして悩み事を話していると、心の安定が取り戻せるという。そして、月に2~3回、マッサージ師のところに行き、メディテーションを受けていた。
「先生に肌が触れているときだけが“生きている”って実感しているかもしれません。先生も忙しくなって予約が取れにくくなってしまったし、施術料金も値上げになってしまった」
施術料金は先生の言い値やクライアントの「お気持ち」で決まる。無尽蔵に金があれば、いつでも会うことができる。しかし、由紀さんは夫からの生活費が削減されてしまった。夫の事業がうまくいかなくなったのか、愛情が薄くなったのか、それはわからないという。
©︎gettyimages
「生きている実感が欲しくて、初めて子供を産みたいと思ったんです。そこで、主人に子供について聞いたら『子供もペットもうるさいから要らない』と言う。実家の親は弟夫妻とその子供たちに夢中で以前のように連絡もくれません。地元の友達は、私が以前、地元をバカにするような発言をして以来、切られてしまいました」
憂鬱そうな表情を浮かべる由紀さんもまた、美しい。今夜も夫と2人でベッドに入るのだろう。夫が欲望を処理するように行う行為で削られた肉体と魂はこれからどのように癒しを求めていくのだろうか。
Text:Aya Sawaki
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