紳士靴とモッズを生んだ国に憧れて
イギリス由来の名前を採ったのは、メンバーにイギリス人がいるのもさることながら、紳士靴発祥の地であり、そして自分のものづくりの根底を流れるものだからです。
聖地ノーサンプトンのはじまりには清教徒革命で活躍したクロムウェル将軍がいました。かれがミリタリーブーツをオーダーしたことからその歴史は はじまったのです。1851年にジョン・ブルック・ニコルスが製甲ミシンを、1879年にチャールズ・グッドイヤー2世がグッドイヤーウェルト製法のマシンを開発して量産の体制が整うと、一気に花開きました。トリッカーズ、クロケット&ジョーンズ、チャーチ……といった具合に雨後の筍のようにシューファクトリーが誕生、最盛期の20世紀初頭には数百の規模に達したそうです。これに先んじるかたちで看板を掲げたジョン ロブやジョージ クレバリーに代表されるビスポークシューメーカーも名だたる顧客を抱え、気炎をあげていました。
イギリスは紳士靴業界をリードしてきた国といって過言ではありません。
一介の木型職人にも多大な影響を与えましたが、自分は木型と出会うまえから浅からぬ関係にありました。ファッションの原風景はモッズ。60年代を風靡したモッズはあらたに誕生した若者のためのカルチャーですね。いまみてもその魅力がちっとも色褪せないのは、50年代までのテーラリングを受け継いでいるカルチャーだからです。
モッズコートの大きなフードひとつとってもそう。そのフードはメットの上からかぶることを踏まえた仕様であり、機能ありきのものづくり、すなわち職人の矜持がベースにある。たしかな職人仕事に担保された機能美と多くの若者を虜にしたスタイルを融合したのがモッズでした。まさにハロゲイトが志向する世界がそこにはありました。
クリス・ファーロウの『アウト・オブ・タイム』はハロゲイトと向き合うときのテーマ曲になっています。ファーロウは60年代のミュージックシーンを語るときに欠かせないミュージシャン。木型を削るときはもとより、車で移動するときもこいつが流れています。
伊勢丹のトランクショーで150足が売れた
おもな取引先は中目黒のベシックス、伊勢丹、スティーブン・アラン。
それなりのものをつくっている自負があります。一過性で終わらせたくないので、僭越ながら売り先は選んでいます。トレンドではなく、プロダクトとして評価してくれる取引先を開拓していきたいと思っています。まだ手付かずですが、靴専門店にも卸していきたい。
伊勢丹のメンズ館では1ヵ月のトランクショーをやったんですが、150足売れました。記録的な数字らしいです。後半はサイズ切れによる機会損失が発生してしまったので、たっぷり在庫を積んでいればもっと伸びたでしょうね。秋の靴博(三越伊勢丹のイベント)にも出品する予定です。楽しみにしていてください。
Vol.2へ つづく
松田哲弥(まつだ てつや)
1979年神奈川生まれ。高校卒業後、地元東京シューズの横浜ルーインズのアルバイトを経てエスペランサ靴学院入学。半年足らずで中退し、アルバイト先だった神戸レザークロスに2002年に入社。木型部門に配属される。2005年、木型職人として独立。2020年、仲間とともにハロゲイトをローンチ。
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HARROGATE
https://harrogate.jp
Photo:Simpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka