オースチンヒーレースプライトは、北米の安全基準を満たすために、ピョコンと飛び出したヘッドライトにより、イギリスではカエルの目(Frog Eye)、北米では昆虫の目(Bugs Eye)、日本ではカニ(蟹)の目という愛称で今なお、親しまれています。
この車を生み出したオースチンヒーレーは、元ラリードライバーであり、自動車エンジニアでもあったドナルド・ヒーレーと、英国の巨大自動車カンパニーBMCが合弁事業として創立されました。最初の市販車、100(後の100/6、3000)を1953年に登場させました。
続いて、財布の軽い若者が購入できる軽量で安価なスポーツカーを計画。開発はドナルドと息子のジェフリーに任され、1958年5月にオースチンヒーレースプライトとしてデビューすることになったのです。
ボディは軽量なモノコック構造を採用し、剛性確保のためトランクリッドは設けられませんでした。全長はわずか3.5mほどしかありません。
エンジンはBMC・Aタイプ直4OHV 948ccで、SUツインキャブ装備により42.5ps/7.18kg-mを発揮。サスペンションは前がウィッシュボーン、後ろが1/4リーフ+ラジアスアームで、ブレーキは4輪ドラム。ラック&ピニオン・ステアリングも採用し、車重も600kgで、こんなカワイイ見た目ながら、ファントゥドライブを実現させたのです。
結果、若者だけでなく、多くの世代から人気を呼び、3年間で4万9000台あまりが生産されるヒット車となりました。1961年に各部をモダナイズしたスプライトMk.2と、兄弟車のMGミジェットMk.1が登場。以後仕様変更を続ける、スプライトは1971年に生産を終了するのでした。
今回おじゃました英国のビンテージ&クラシックカーのスペシャル店「パルクフェルメ」には2台のオースチンヒーレースプライトの販売車がありました。1959年式の右ハンドルは、英国にてレストアされた1台で、リーフグリーンというならではの色合いが内外装に施されています。
もう1台は、1960年式の左ハンドル。ブリティッシュレーシンググリーンの外装に、黒の内装が組み合わされた、ザ・英国車なカラーリング。ともに、エンジン一発始動で、フルレストアしてからオドメーターをほとんど伸ばすことなく、ミントなコンディションを維持していました。
価格は右ハンドル車が約500万円、左ハンドル車が約400万円と、程度は同等なのに、このような価格差がついています。英国車だから、やはりオリジナルのハンドル位置で乗りたい、という方が多く、ヒストリーを気にされる方もいらっしゃることでしょう。
しかし、当時のカニ目の販売先の半分以上は北米だったともいいます。ということは、左ハンドルがある意味主流と言ってもよいかと思います。が、とはいえ、やっぱり右ハンドルで乗りたい、所持したい、という気持ちには同感。趣味のものですから、ゆずれないポイントは必ずあります。ちなみに、兄弟車であるミジェットはもっと相場が低いとも言われています。見た目は違いますが、基本は同じ。嗚呼、悩ましい。
いざ試乗してみると、なんとも軽快で、排気音も心地よい。店主の金子さん曰く、「いろいろイジりたくなるんだけど、やっぱりオリジナルがちょうどいい」。もっと速く、もっとサウンドご機嫌にしたくなる気持ちはわからないではありませんが、つまりそういうことなんでしょうね。
高騰続くビンテージカーではありますが、趣味にお金はかかるもの。楽しい人生を送れた、と思えるために使うお金は無駄ではありません。
そんなカニ目の動画もありますので、ぜひご覧ください。
parc ferme TOKYO
東京都世田谷区上用賀5-25-4
03-6432-7662
http://parc-ferme.jp/
Video:Yoshihide Shojima
Video edit:Airi
Text:Takashi Ogiyama