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LIFESTYLE 女たちの事件簿

【後編】虐待から逃げた15の夜。全てを失った私に、全てをくれた人

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不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。

幼いころに両親が離婚し、祖母のもとで育った志帆。中学に上がる頃に実の父親と暮らし始めたが、まもなく父は暴力を振るい始める。日々エスカレートする暴力に耐えかねて家を飛び出た志帆は、祖母の妹の知り合いの食堂で働き始める。

前編はこちら

※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。

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©Getty Images

中年の夫婦が切り盛りする食堂は小さいながら客足が絶えず繁盛していた。厨房にいるおじさんは淡々と接してくれたが、おばさんは迷惑そうな態度を隠さなかった。

肩身は狭いが他に生きる術を知らない。雇ってもらっていることに感謝して明るく振る舞い必死に働いたが、仕事が終われば暖房のない冷たい部屋で毛布と孤独に包まって泣きながら眠った。

 

常連さんの中にオーナー夫婦が剛くん(仮名)と呼ぶ「お兄さん」がいた。

料理を運ぶと「有難う」と目を見て言ってくれる。いつしか剛が来ると安心するようになり、そして楽しみに待つようになった。いつも剛は夫婦の会話を静かに笑って聞いていたが、自身の生い立ちから相手の表情を読み取ることに長けていた志帆は、どこか寂し気な人だと感じていた。

©Getty Images

ある夜の仕事の帰り道、トラックから降りてきた剛とばったり会った。そこは剛の住むアパートの駐車場だった。志帆は駆け寄った。

「お兄さん!」

挨拶だけのつもりが世間話になり、二月の寒い日にも関わらず志帆は自分が食堂で働くことになった経緯や身の上話までしていた。剛は優しく、やはり言葉少なに静かに聞いてくれた。

それから剛は食堂へ来るたび、読み終えた本や漫画を持って来てくれるようになった。それを帰宅後に湯たんぽを抱えながら読むことが志帆の唯一の楽しみになっていた。

 

ある日、剛から本と一緒に小さな紙切れをそっと渡され、トイレに駆け込んでそれを開くと「今夜うちにご飯を食べにおいで」と書いてあった。志帆は飛び上がるほど嬉しかった。

剛のアパートを訪ねると折り紙で装飾された派手な部屋が目に飛び込んできた。

「お誕生日おめでとう! 誕生日会するぞ」



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