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FASHION 百“靴”争鳴

【世界一の靴磨き職人】長谷川裕也が惚れ抜いた、千利休とパンク 最終回

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パンクの精神で

大貫憲章さんって知っています? パンクロックDJのパイオニアです。70歳で現役。すごいでしょ。今晩、ライブがあるんです。いきたくて仕方がないんですけど、今日は息子の誕生日。奥さんが怖いので諦めるでしょうね(笑)。

子どものころからパンクが好きでした。さんざん聴いてきたけれど、評論家のように ものがいえるわけでも演奏ができるわけでもありません。ただ、好きだった。好きだったのは、その生き様です。いい大人がなんでもかんでも噛みついていたら それは単なる愚か者ですが、挑む気持ちはいくつになっても忘れちゃいけない。

考えてみれば千利休もパンクなんです。繊細な唐物が良しとされる時代に真っ黒な楽茶碗をつくりだしたわけですから。

靴磨きはそれまで けして褒められた職業じゃなかった。小学生に憧れられるようになったら胸のすく思いでしょう。これぞパンクですよ。

靴磨きに打ち込めたのはパンクの精神があったればこそですが、母の存在も とても大きい。母はキャバクラを経営していて、それでぼくを育ててくれました。“職業に貴賤なし”を身をもって教えてくれた。

そうそう、品川駅で磨いていたころ、こっそり みにきたことがあります。ぼくは運悪く警官に追い立てられているタイミングでした。歩道橋から覗きこんでいたうちの母親、そのまま なんにもいわずに立ち去りました。我が母ながら肝の座りっぷりには驚かされました。

これはずいぶん前に妹から聞いた話なんですが、ヤのつくひとを馬乗りになって殴ったこともあったそうです(笑)。



取材がはじまると、おもむろに長谷川さんは いった。「(インタビュアーのペンケースを指差して)磨いてもいいですか」。手入れなど一度もしたことのないそのペンケースは土仕事でひび割れた農夫の手のようになっていた。長谷川さんには やり手の実業家のようなイメージをもっていて、一線を退く、という話を さもありなんと聞いていたのだけれど、そのイメージは少々異なっていたようだ。磨き終えた長谷川さんは こういった。「ぼくは根っからの職人ではありません。といって経営者として成功したいという意識も希薄です。いまのぼくがあるのは、ただただ靴磨きが好きだったからだと思う」

目の前にあるペンケースは、いまも深い光沢をたたえている。

Vol.1はこちらから。

長谷川裕也(はせがわ ゆうや)
1984年千葉生まれ。商業高校卒業後、製鉄会社に入社。英会話スクールの営業、セオリー の販売を経て起業。2008年、南青山にブリフトアッシュをオープン。2017年、ロンドンで 開催されたワールド・チャンピオンシップ・イン・シューシャイニングで初代王者に 。2020年にはNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演。初の著書『靴磨きの本 』(亜紀書房)は増刷に増刷を重ねて12刷。

【問い合わせ】

Brift H
東京都港区南青山6-3-11 PAN南青山204
03-3797-0373
https://brift-h.com

Photo:Naoto Otsubo
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka



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