スタイルのある男には憧れますが、同じを貫くことが困難。
かつて編集者として出版社に勤めた経験があり、現在はファッション誌や広告、そして国民的アイドルからミュージシャン、政治家のスタイリングに至るまであらゆるシーンで活躍するスタイリスト櫻井賢之さん。
幅広い知識に基づき、クラシックからモード、ストリートに至るまで幅広いジャンルに精通する櫻井さんが、思い入れが強くて捨てられなかった服をご紹介する企画の第4回目は、チェーザレ アットリーニ(CESARE ATTOLINI)のチェスターフィールドコートです。
「このコートは2008年ごろだったかな、パターンオーダーで作りました。イベントで現地スタッフが来日していて、そこで頼んだんだと思います。当時はスーツを着る機会も多かったので、そのときに着る用のコートとしてオーダーしました。チェスターフィールドコートでネイビーなら使い勝手も良いですから。
採寸して作っていただいたので身体にフィットしているんですが、このフィットしすぎる感じが嫌で着なくなってしまいました。作ったときはこのフィットが良かったんですが、フィットって時代と気分で変わってしまうので。
テーラリングって着丈や肩幅、ポケットの位置などミリ単位の微差で雰囲気が変わってしまうので、気になってしまうとどうにもならなくて、袖を通す機会はなくなってしまいました。
メンズのテーラリングに関しては、自身のスタイルがある人なら似合うしカッコいいと思うんですが、自分の場合は同じものをずっと着続ける思考がないので、合わないのかもしれません。スタイルのある男にはなりたいとは思っているんですが…。
素材にもこだわって作ったんですが、これを着ないから手放すとなっても安価でしか買い取って貰えません。スタイリングで使えるかもと手放さずに持っていたら、2年ほど前に使う機会には恵まれました。
スーツを着る機会がほぼなくなってしまったので、こんな真面目なコートに袖を通すこともなくなってしまったのですが、パターンオーダーで作ったという思い出もあるため手放すには忍びなく、今後もクローゼットに眠り続けることになると思います」。
スタイリスト
ファッション誌編集部員を経て、2001年よりフリーランスのスタイリストとして活動をスタート。メンズファッション誌にとどまらず、広告から芸能、音楽シーンに至るまで活躍の場を広げている。幅広い知識に基づく洗練されたスタイリングに定評あり。1971年、東京生まれ。
Photo:Shimpei Suzuki
Edit:Ryutaro Yanaka