【Sloane Ranger Tokyoのトリセツ②】大西さんの理想を体現したサロン
大好きな1930年代と1920年代スタイルを軸に、「着たい服」を作る
――大西さんの着こなしとビルの雰囲気があまりにマッチしていて、タイムスリップしたかのようです。
大西慎哉(以下、大西) 店を持つのが30歳頃からの夢で、当時から現在のテーラードスタイルの源流である1920~30年代の服への憧れが強く、当時の雰囲気を残すこのビルと、銀座というロケーションで、「店を持つならこのビル一択」でした。
――居心地はいかがですか。
大西 銀座の知る人ぞ知る裏路地にあるビルですが、居心地はとても良いです。完全予約制にしているので、お客様も寛いでいただいて、お店というよりサロンですね。
――どういう店にしようと思いましたか。
大西 「1900年初頭から2000年ぐらいまでの古着を並べて、そのデザインを継承しつつ、好きなデザインを作りましょう」という構想がありました。オーダースーツのほかに、20世紀初頭から現代までのヴィンテージスーツや英国の軍服、トップブランドのヴィンテージアイテムも扱い、どちらも購入できて、かつファッションアドバイスもできる店ですね。英国に憧れる日本人と日本のものつくりがコンセプトです。
前は画廊の事務所で、白壁などはそのままですが、入口横のフィッティングルームは新たに作ったそうです
――そのコンセプトが店名に表現されていると。
大西 「Sloane Ranger」を店名にと思ったのも30代の頃で、1982年にイギリスで出版された『The official Sloane Ranger handbook : How the British upper class prepares its offspring for life』という本のタイトルでもあります。
――Sloane Rangerとはどういう意味ですか。
大西 Sloane Rangerは、ロンドン・チェルシー地区のスローンスクエアに暮らす良家の子女たちのスタイルや文化の名称で、代表的なのは本の表紙にもなっているダイアナ元妃で、男性ではチャールズ皇太子です。Sloane Rangerという名称は、英国上層階級の伝統意識に基づく生活様式と服装学のことを指し、それこそがトラディショナルのルーツと言われています。
――なるほど。ダイアナ元妃は、本の中では“スーパースローン”と書かれていて、現在ならキャサリン妃ということですね。
大西 この店を表現するのに一番象徴的な言葉を店名にしました。イギリスが好きな人は店名だけでピンとくるようで、口コミで来店される方も多いですね。店名のロゴは、綿谷“画伯”寛さんにデザインしてもらって、画伯のファンも来られます。
――2月でオープン一周年になりますが、どんなお客さんが多いですか。
大西 50歳前後から上の年代の方と、20代も多いですね。ビジネスマンではNY在住の日本人の銀行員が日本に戻った際に来たり、フランスに住んでいる人が来店するなど、こちらがドキドキします(笑)。
――20代の若い世代が多いという「世代の二極化」も面白いですね。
大西 大学生などが集うクラシックスタイルのコミューンがあるようで、彼らは映画を観て興味を持つそうです。上の世代でもコロナ禍のステイホームで昔好きだった映画を観て、スターが着ている服を着てみたいという方は多いですね。
――ここには映画のパンフレットやスタイルの写真集なども豊富にあって、服好きなら何時間でも話が尽きないでしょう。
大西 映画の『ゴッドファーザー』やイギリスのテレビドラマシリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』を観たり、雑誌『Esquire(エスクァイア)』のローレンス・フェロウズのイラストが好きだったりする、1930年代のグラマラスなスタイルに憧れてくる人が多いです。
――FORZA STYLEでお馴染みの赤峰“ドクトル”幸生さんのスタイルとの違いは?
大西 赤峰先生が追求しているのは「正統派クラシック」で、私が好んでいるのは現代のベーシックスタイルとなる1920年代スタイルと、デコラティブで色気のある1930年代スタイルの2本立て。それがオーダーのメインになります。
――なるほど。赤峰さんと、大西さんが提案するものの違いがよく分かります。