2021年4月に開催された上海モーターショーで、スバルとトヨタがEVを発売すると発表してから7ヶ月後の11月11日、スバルは、初のバッテリーEV「ソルテラ」を世界初公開した。

これまで、インプレッサやフォレスターにマイルドハイブリッド(e-BOXER)を用意していたスバルが、ストロングハイブリッドを飛び越えて、バッテリーEVの発売に踏み切ってきた。トヨタの技術供与を受ければ、すぐにでも実現可能であろうストロングハイブリッドよりも、バッテリーEVを選んだ理由はどこにあるのか。「ソルテラ」はスバルにとって、どのような存在なのだろうか。
■周回遅れだった自社の環境性能を巻き返した
スバルがe-BOXERを初めて採用したのは、2018年4月に登場した現行フォレスターだ。発進時にモーターアシストをするマイルドハイブリッドであったため、燃費への貢献はさほどなかったが、それでも、水平対向4気筒エンジンへのハイブリッド初搭載として、話題となった。だがそれ以降、e-BOXERを積んだのは、XVとインプレッサのみで、その他のモデルへの展開はなかった。
ストロングハイブリッドに関しても、北米市場では、トヨタのプラグインハイブリッドを搭載した「クロストレック ハイブリッド(2019~)」が登場しているが、横置きエンジン用のTHS-Ⅱを、水平対向エンジン用に向きを変えて組み合わせる改造が必要など、水平対向エンジンのストロングハイブリッド化は、簡単には出来なかった。

ご存じの通り、各自動車メーカーが電動化に踏み切る背景にあるのは、CAFE規制だ。企業別の平均燃費が基準を満たさなければ、罰則金が課されるルールであり、2030年度燃費基準推定値は、25.4km/L(WLTCモード)という高い水準。現在、スバルで最も燃費の良いインプレッサですら15.2km/Lであることを考えると、相当な燃費改善が求められる。
他の国内自動車メーカーが、ストロングハイブリッドやPHEV、バッテリーEVを続けて出す中で、スバルは、ハイブリッドなどクルマの電動化に関しては、明らかに出遅れの状態であった。スバルも自社のみでこの状況から脱することは難しいと判断、急ぎ、トヨタとEVを共同開発することを決断した、ということだろう。

トヨタは、どこの自動車メーカーよりも、ハイブリッドやFCEVといった、電動化技術を研究・開発してきた歴史をもつ。ハイブリッドからエンジンを除いたバッテリーEVであっても、技術やノウハウの多くを生かすことは可能だ。またBRZと86の共同開発による「企業間の近さ」もあることで、トヨタと組むことで成功できる自信があったのだろう。スバルは、今の周回遅れの状況から巻き返せることに自信を持っているはずだ。
■使命は「スバル製バッテリーEV」の認知とファンを繋ぎとめること
企業別平均燃費は、よく売れる車種の影響を受けやすいため、燃費のいい車種が売れなければ、企業燃費の改善効果は薄まってしまう。スバルとしてはこの「ソルテラ」を確実に売らなければならない。また、「スバルがバッテリーEVを扱っていることを世に広めること」という使命も、ソルテラには課されている。

無条件でソルテラを購入してくれるスバルファンもいるだろうが、生粋のファンであればこそ、「バッテリーEVなんてスバル車じゃない」と、避ける可能性もある。水平対向エンジンとシンメトリカルAWDで売り込んできたスバルだが、その片翼である「水平対向エンジン」が無くなることで、独自性がどこまで維持されるのか、は注目すべき点だ。
■コスパとスバルらしさで勝負だ激戦区に挑む
Dセグメントに属するソルテラのライバルは、兄弟車であるトヨタのbZ4Xのほか、バッテリーEVの世界販売台数1位のテスラ モデル3や日産アリアだ。まさに、バッテリーEV超激戦区に挑むことになり、知名度の低い「ソルテラ」が厳しい状況におかれることは間違いない。
ソルテラは、アリアに対して全長が95mm長く、バッテリーが若干大きめのサイズ(約7.5%多い)でありながら、価格はほぼ同等と、アリアよりもコストパフォーマンスに優れる。またソルテラは後発であることからも、様々な販売戦略を織り込むことは可能だろう。

スバルは、魅力的なエンジン車を多くラインナップしている。筆者自身、水平対向エンジン特有のサウンドや振動は好きで、今後も絶やさないで欲しいとも思うが、そうは言っていられないのが現状だ。こうした特徴が無くなるのは惜しいものだが、今後、バッテリーEVが主流となっても、「スバルらしさ」をもち続けて欲しいと願う。
Text:MMM-Production,Tachibana Kazunori
Photo:SUBARU
Edit:Takashi Ogiyama