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誰が得をするのか?「EV推進の罠「脱炭素」政策の嘘」を読んでわかったこと

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安全装備や自動運転でますます高額化している現代のクルマ。上手に購入する方法は? さらに、所有してからも様々なトラブルやアクシデントが起きるのがカーライフ。それら障害を難なくこなし、より楽しくお得にクルマと付き合う方法を自動車ジャーナリスト吉川賢一がお伝えします。

今年も残すところあとわずか。年末年始を控え、正月準備をしている方も多いかと思う。正月といえば、カニやイクラ、数の子などの海産物が多く並ぶが、今年はそれらが例年に比べ、高騰しているという。その原因はさまざまあるようだが、背景のひとつとして、海水温の上昇が関係している可能性が指摘されている。

何十年先の未来ではなく、現在の我々の生活を直撃しつつある、地球温暖化。何らかの対策が急務であることは、地球上に住む人すべての共通認識ではある(と思いたい)が、その方策には、首をかしげるものも多い。そのひとつが、クルマの電動化だ。

常々疑問に思っていたところで、元内閣官房参与である加藤康子氏と、自動車経済評論家である池田直渡氏、そしてモータージャーナリストである岡崎五朗氏による著書「EV推進の罠 脱炭素政策の嘘(ワニブックス)」に出会った。データに戻づく解説で、筆者としては非常に納得できる内容だった。筆者の所感をまとめておきたい。

 

■ガソリン車廃止は「正しい」ことなのか

確かに、クルマはCO2を排出するものだ。純ガソリン車だけでなく、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド含む)であっても、走行時にCO2は発生している。ただ、その方策として、「バッテリーEV(バッテリーの電力のみで走行するEV)が正解」とされていることについては、常に疑問に思っていた。

2019年、日産リーフに追加された、航続距離458km(WLTCモード)の「リーフe+」。この航続距離を実現するため、車重は160kgも増えた。車重が増えればその分、燃費(電費)が悪くなる(=環境負荷が増える)が……。

確かに、バッテリーEVは、走行時のCO2排出は「ゼロ」だ。バッテリーEVを「ゼロ・エミッションカー」として、普及のため、国や地方自治体から多大な補助金が投入されている。しかし、筆者は、バッテリーEVがガソリン自動車に代わるモビリティとなる、というのが、少なくとも現時点の正解だとは思っていない。

 

■バッテリーEVの製造工程CO2排出量は、ディーゼル車の約2倍

昨今は、自動車の製造過程で発生するCO2排出量を加味した「Well to Wheel(燃料精製や電力生成からタイヤ駆動まで)」での比較や、「LCA(ライフサイクルアセスメント:製造・使用・廃棄あるいは再使用されるまでのすべての段階を通した環境負荷を評価する方法)」のついても取り上げられている。

走行中だけでなく、製造工程なども含めて考えた場合、製造の過程で多くのエネルギーを必要とするバッテリーEVの環境負荷は実はかなり大きい。リチウムイオン電池に用いられるリチウムやニッケル、コバルトといった金属抽出や精錬には、多くのエネルギーが必要だからだ。

このような状況について、自動車メーカーも問題視しており、2020年5月にはフォルクスワーゲンが「ディーゼル車とバッテリーEVを比較した場合、バッテリーEVの方が製造段階で約2倍のCO2を排出している」という情報を公開している。三菱自動車も、アウトランダーPHEVの解説の中で、LCAで見れば、プラグインハイブリッド車の方がバッテリーEVよりも優れている、と説明している。

三菱自動車がアウトランダーPHEVの資料として公開。「日本において、プラグインハイブリッド車は、LCAを考慮したとき、SUVクラスではもっとも環境負荷が少ないクルマ」としている

この三菱自動車のデータでは、EUと日本で、LCA過程のCO2発生量が異なっているが、それは、火力発電が主体か、原子力発電が主体かの違いだ。東日本大震災の影響もあり、日本では原子力発電への風当たりが非常に強い。日本の火力発電効率は世界一の水準ではあるが、それで原子力発電よりもCO2排出量が多くなる火力発電に頼らざるを得ない日本のエネルギー政策もまた、悩ましい課題である。

 

■EV推進は、日本を貶める「罠」

トヨタの豊田章男社長がいう「選択肢を広げる」、つまり、バッテリーEVだけでなく、それぞれの国や地域に適したエネルギー元のクルマを用意して、複合技でCO2削減を目指す道が望ましい、という点は、筆者も大いに共感している。

と、前置きが長くなったが、ここまでは、今回のお題である「EV推進の罠」と、筆者の考えは共通していた。本書を読了した率直な感想としては、筆者の考えなど、まだまだ「木を見て森を見ず」なのだと痛感させられた。

国土交通省の2018年度のデータでは、ひとり1kmあたりの移動で排出されるCO2の量は、乗用車が133gなのに対し鉄道は18gと環境負荷が少ない。本当に環境負荷を考えるならば、鉄道輸送にもっと注力するべきではないか。

地球環境は確かに大切なことではあるが、このままバッテリーEVを推進していくことは、日本の国力低下のみならず、日本を脅かし続ける中国の影響力をますます増大させることにも繋がっていくという。こうした背景を無視して、日本でも他国と同じようCO2削減を狙う、これこそが本書タイトルでもある「EV推進の罠」なのだ。

 

■まとめ

このような「背景」まで考えなくても、バッテリーEVの推進が正解ではないことはお分かりいただけたであろう。ちょっと調べればバッテリーEVの矛盾は分かるはずなのに、推進されているウラには、このような「罠」があるようだ。本書で交わされている内容は、他の様々な疑問についても論議されている。本書は、YouTubeでの談話を活字化したものなので、動画で見ることも可能だ。もし興味があれば是非読んでみてほしい。

Text:Kenichi Yoshikawa
photo:Adobe Stock,MITSUBISHI,NISSAN,国土交通省
Edit:Takashi Ogiyama



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