ひとつひとつみずからの頭で考え、手を動かして一足のブーツをつくりあげる後藤さん。
彼は、生まれ変わっても靴をつくっているかも知れないと笑いました――
財布に1000円しか入っていない日も
自宅の一角を借りてホワイトクラウドを旗揚げしました。2005年のことです。いきなりの独立ですからはじめは苦労しました。財布をのぞいたら1000円しか入っていないなんて日もざらにありました。けどね、そういうときに限って注文が入る。なんとかなるものなんです。
苦節の時は いま振り返ればほんのいっときでした。というのも枻出版社の雑誌が大々的に取り上げてくれたからです。ハーレーと付き合いの深い出版社ですからね。その縁で。
翌06年にはこの自宅兼工房を手に入れました。
来世も靴をつくっているかも
いっぱんに靴職人は10年やって一人前といわれます。ところがいまだに試行錯誤の連続です。なぜならわたしはおんなじブーツでも都度 頭を悩ませるからです。たとえば幅を出した(横幅を広げた)だけで出し縫いも色づけもしっくりこない。こうなるともうだめです。自分のなかで“キマった”と思えるところまで手を動かし続けます。
この点ではやっぱり歴史のある工房がうらやましい。彼らはいかに早く、きれいに仕上げるか、という問いに対する答えが――しかも何十年かけてたどり着いた揺るぎない答えがあるからです。
考えなくても手が動くというのは職人の目指すべき姿です。このあいだYouTubeでみたんですけど、中華屋の鍋の扱いには痺れました。悩むことがない手さばきは惚れ惚れするほど美しい。
自分には積み重ねたものがないから、いちいち壁にぶち当たるというわけです。このまんまじゃ、一生かかっても自分が理想とする靴づくりは完成しないかも知れない。生まれ変わってようやくじゃないか。できることならいまからでも小笠原シューズで修業したいって半分本気で思います(笑)。
でもね、それが自分の選んだやり方なんだから仕方がない。それに悩みに悩んで手をかければかけるほど、そのブーツは間違いなく輝きを増す。
そんな風に靴づくりと向き合ってたどり着いたのが丸二日かけるヒール仕上げであり、アッパーを木型に沿わせるハンマリングであり、5㎜厚のベンズを成型した先芯や月型芯でした。
これもほかでやっているところは少ないと思うけれど、幅を出したブーツは中底もいちからつくっています。ふつう、中底まではいじらないんだけれど、そうするとバランスが崩れるんですよ。つくって履いてを繰り返したからこそわかったことです。
ワークブーツが好きな人のブーツへの愛は生半可ではありません。。オールソールを繰り返していれば、そのうちアッパーもへたってきます。いよいよだめになったらどうするか。彼らは処分するんじゃなくて、アッパーも交換することを選ぶんです。みずから履いて育てたブーツですからね。彼らの気持ちは痛いほどわかります。彼らのためにも、手は抜けないんです。
仲間とともに分業制のブランドを立ち上げる
ホワイトクラウドは自分の誇りだからこれからも大切にしていきますが、そうはいっても納期が2年というのはまずい。自分なりの解決策がジャック&ホワイト・ブラザーズでした。小笠原シューズに釣り込みをお願いしているいわゆる分業制のブランドです。残りはすべて自分ですからあれですが、それでも納期は6ヵ月。デザインは決まっているし、木型もいじらないから、このブーツだけは考えずにつくれるんです。
今年のはじめにはオンラインもスタートしました。こちらで用意したメジャーメントシートで足を測ってもらう仕組みです。
ジャック&ホワイト・ブラザーズはあり型なんでオンラインでもなんとかなりますが、ホワイトクラウドはそういうわけにはいきません。ホワイトクラウドをご注文いただく場合はかならず来店してもらう。当日はフィッティングを確かめるために工房の近所をぐるっと歩いていただくことも。お客さんひとりに半日かかることも珍しくありません。
MADE IN JAPANを背負って
高校を卒業すると、なにかの役に立つかと思って英会話のビジネススクールに入りましたが、話せません。軍資金稼ぎに勤めたハーレーは英語が必須。学校で学んだっていって採用されたからろくに話せないことがバレたときは しこたま怒られました(笑)。
(ホワイトクラウドの)海外のお客さんとのやりとりもカタコトです。でも、靴のことだからなんとなく通じるんですよ。ええ。うちは海外のお客さんが多いんです。中国、インド、フィリピン、アメリカ、イギリス。現在は7割が海外ですね。
独立して15年。いまわたしは、MADE IN JAPANを背負っている気持ちでやっています。いよいよ手を抜いた靴はつくれません。
2019年の暮れにはアメリカでトランクショーもやりました。お披露目の場はレイルカー・ファイン・グッズ。ロサンゼルス中心部から車でおよそ1時間の街、モンロビアにあるお店です(現在は同州のエルモンテに移転)。デニムやワークウェアを自分たちでつくっていて、扉を開けると一等最初に目に飛び込んでくるのはバーバーの空間。とっても格好いい店です。
向こうのお客さんも増えたし、コロナが落ち着いたらまた乗り込みたいですね。
後藤庄一(ごとう しょういち)
1972年山梨生まれ。高校卒業後、ビジネス英会話スクールを経て1993年、イタリアのレーシングブーツ・ブランド、シディを扱う輸入代理店の岡田商事に就職。1998年、接骨院に転職。2001年、ハーレーダビッドソンジャパンに転職。2003年、サルワカフットウェアカレッジに入校。2005年、ホワイトクラウドを立ち上げる。屋号には空に浮かぶ雲のように自由でありたいという思いが込められている。
【問い合わせ】
WHITE KLOUD CUSTOM BOOTS
埼玉県越谷市蒲生東町5-38
048-985-9816
info@88.whitekloud.jp
https://whitekloud.com
Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka