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LIFESTYLE 女たちの事件簿

【女たちの事件簿Vol.2】DV被害者だった私が、夫に包丁を向けた瞬間。

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不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。

過剰な愛情表現によって人生を壊されかけた女性の話

大切な人からの愛情表現は本来かけがえのないものである。

ⒸGetty Images

しかし、愛情過剰により引き起されるのがモラハラ、そしてドメスティックバイオレンス(DV)だ。そんな普通ではない愛情表現に、人生を壊されかけた女性がいる。

現在45歳の祐子(仮名)。実年齢よりも上に見えるのは、やはり長きにわたる精神的、身体的な苦しみが歴史の一部として顏に刻み込まれているからなのだろうか。

※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。

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祐子の苦しみ。それは、長年にわたる元夫からの言葉の暴力と身体的な暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)によるものだった。

夫の変化に気づき始めたのは結婚して二年が経った頃。自分の価値観以外は認めないという、自己中心的な発言や振る舞いからだった。そして、その行動は息子が生まれてから、一層酷くなっていくのだった。

決め台詞は「お前のため」

子供が生まれてからも、家事、育児には積極的に参加してくれていた夫。真面目な性格で、物事を自分の思うように進めたいという気持ちが人一倍強いタイプ。

家はキレイじゃなくてはダメ! スケジュール通りに物事が進まないとダメ! そして、ダメだしの後に必ず言うセリフが「何もできないお前のために、俺が家事の正しいやり方を教えてあげているんだぞ!感謝しろよ」だった。

ⒸGetty Images

いわゆる『モラハラ』だ。しかし、祐子はこの時の心境を「何もできない私に親身になって本気で色々なことを教えてくれている。そんな風に感じていました」と語る。


まさに洗脳だ。
 

息子が生まれ、生活が子ども中心になるにつれ、自分の思い通りにできないことがどんどん増えていく毎日。妻は息子にかかりっきりで、自分の相手はしてくれない。そんな日々に夫は苛立ちを募らせ、怒りを爆発させるようになっていった。

なかなか眠らない息子に苛立ち、「いつまでやってるんだ! 寝かせつけられないお前が悪い!」と罵声を浴びせる夫。祐子は「お願いだから」とつぶやきながら、必死に泣きじゃくる息子をあやした。次第に、いびつな愛で形作られた夫の刃は息子にも向けられるようになっていった……。そして祐子は徐々に気づき始めたのだ。彼の狂気に満ちた愛情に。

行き過ぎたしつけという愛情表現

当時2歳の息子に対する夫の愛情表現は、大人と同じレベルを要求するという『行き過ぎたしつけ』という形で表れた。

食事中、上手く食べられない息子に、怒鳴り散らしながら胸ぐらをつかみ、外に引きずりだしたり、夜中、風邪が原因で咳き込む息子に、「何で何度も咳をしているんだ!」と怒鳴りつけ殴る始末。おまけと言わんばかりに、私も殴られる。

ⒸGetty Images

以降、息子は夫の前では咳を必死に我慢し、布団にもぐってこっそりと咳をするようになってしまった。何度も言うが、彼はまだ2歳。生まれてから2年しか経ってないのにだ。

娘の幸せを願う母の愛情が解決を阻む

場所や時間を選ばずに受ける夫からの暴言や暴力。それは、体裁など一切気にせず、祐子の母や妹の前でも容赦なく行われた。現場に遭遇した二人は、恐怖で声を発することもできなかったという。

そんな日々を数年間過ごしてきて、祐子の身体は悲鳴をあげた。しかし、母親からは「離婚しろ、離れろ」という救済の言葉はなく、「あなたにも、そういう行動を誘発する言葉や行動があったんじゃないの?」という一言。娘の幸せを願う母親から発せられたこの言葉、母親との関係が良くなかったのでも、冷酷人間というわけでもない。経済的安心=幸せという、古い考え故の言葉なのだ。

「命を守るために、今すぐ逃げなさい」

暴言や暴力が以前にも増して酷かったこの時期、とうとう事件が起こった……。それは一本の電話から始まった。息子が暴れているという学校からの電話だった。

暴言を吐きながら、叫び、物を投げ、あばれ回ったらしい。「まるで夫だ……夫の影響だ」。心の奥底から、怒りが少しずつ沸き上がるのを祐子は感じた。

帰宅後、夫はすぐに息子に暴れた理由を問いただした。答えるわけもなく、いつもの制裁が息子を襲う。お構いなしに息子を殴る蹴るの夫……。

その姿に、祐子の中で何かが壊れた。ついに夫への怒りがDVの恐怖を上回り、「お前のせいだ、お前のせいだ。全てお前のせいなんだよ!」と叫んでいた。

夫の標的が変わった……「俺は、悪いことはするなとこいつに教えてやってるんだ!」の鉄槌を祐子に下す夫。

「私も殺される。その前に私がやらなきゃ」。そう思った祐子の右手には包丁が……。

 

「〇〇さん。警察です。どうしましたか?」
この騒ぎを聞きつけた近所の人が通報したのだ。

気付いた時には警察にいた。目の前にはカウンセラーの女性が一人。

「とても大変な時間を過ごされてきたみたいですね。あなたは今すぐ逃げるべき。逃げなさい」

逃げていいんだ、そう、逃げていいんだよね。その一言に涙が止まらなかった……。
遠くのほうに、小さな光が見えた瞬間だった。

被害者であった息子の怒りが……

暴言や暴力に苦しめられた日々から逃れ、息子との落ち着いた生活が始まった。

折れた翼を癒すべく、2人はカウンセリングに通い、閉じ込めてきた思いを徐々に吐き出すようになった。息子は夫から逃れた後も、幾度となく暴れた。時には大人が二人かかっても手が付けられないほど激しく。新たな地獄の始まり……。恐怖から逃げ延び、安住の地で、親子二人で暮らしていくことを願っていた祐子を再び襲った息子の暴力。

しかし、その状態は、恐怖で出せずにいた心の中の‟怒り“を出し始めた、治癒の兆候だったのだ。

一年間の別居生活の末……

一年間の逃亡の末、離婚が成立。

この期間は、元夫にも少なからず変化をもたらした。DV加害者更生プログラムに通いはじめたのだ。プログラムでは人格を変えるのではなく、考え方や行動を変えることを目標に心理学を学んでいく。自分の行動は自分の選択であることを自覚する。

ⒸGetty Images

「相手が私を怒らせる」ではなく、「私が怒りを選択している」のだと。加害者は多くの場合、相手が怒らせるようなことをしなければ、自分は加害者にならずに済んだという被害者意識がある。しかし学びを進めるにつれ、自分の行動の責任は相手ではなく、自分自身にあると知るようになるのだ。

現在、祐子のライフワークは自身の体験を語るという講演会だ。そこには、多くの女性だけでなく男性の姿もちらほらある。ドメスティックバイオレンス(DV)というと、男性によるパートナー女性に対する暴力というイメージが一般的だが、男性被害者が増え続けているのが最近の現状だ。男性はその現状に「恥ずかしい」と感じ、相談することができないそうだ。

苦しみの中、意を決し、講演から何か突破の手がかりが欲しいと願う彼らに向けて、今日も祐子は語りかける。

「あなたの愛は、愛する人にきちんと届いていますか?」

Text:女の事件簿調査チーム

“女の事件簿” 調査チームとは?

「酸いも甘いも噛み分けてきた、経験豊富な敏腕女性ライターチーム。公私にわたる豊富な人脈から、ごくありふれた日常の水面下に潜む、女たちのさまざまな事件をあぶり出します。

「女の事件簿調査チーム」への取材依頼はこちらまで→forzastyle.web@gmail.com



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