国産のスポーツカーといえば、日産GT-RやフェアレディZ、ホンダNSXなどが挙げられる。また、つい先日には、スバル新型BRZが発表となった。しかし、スポーツカーは多くの販売台数が見込めず、メーカーとしては利益を生まないスポーツカーを作り続けることをよしとしない考えもある。NSXやS660の販売中止がいい例だろう。だが、スポーツカーを作り続けることはメーカーのステイタスやブランド力を高めることができるのも間違いない。その成功例は、マツダが1989年から現在まで「ロードスター」を作り続けていることで、証明できるのではないだろうか。
現行ロードスターは、2015年にデビューした4代目。徐々に大型化していた3代目までとは違い、初代のライトウェイトスポーツを彷彿とさせるサイズへと、原点回帰を果たしている。
しかし、SUVやミニバンが全盛の現代において、スポーツカーを作り続ける、ということは、新車を販売して利益をあげる自動車メーカーにとって、容易なことではないはず。なぜマツダロードスターは、ここまで長くつくり続けられているのだろうか。
■こだわりのスポーツカーをリーズナブルな価格で
「ロードスター」というクルマについて知るためには、1989年に登場した初代ロードスター(NA)について知ることが近道だろう。初代ロードスターの開発は、マツダ社内で募られた有志によって、「誰もが楽しめるクルマ」を目指して開発された。
「誰もが楽しめるクルマ」にするため、初代ロードスターのフロントサスには、ユーザーが自分でキャンバー角などを調節したり、ショックを交換したり、といった改造の自由度を持たせるため、ダブルウィッシュボーン(DWB)が採用された。マツダ社内には、「(よりコストの安い)ストラットでも成り立っていたじゃないか(※プロトタイプカーではストラットだった)」という反対の声もあったそうだが、開発チームは「ストラット並に安く、軽く造る」と宣言。ギリギリまで攻めた設計を行い、サスペンションリンク以外のクロスメンバーなども軽くしあげ、ストラット並みに軽量にすることに成功。軽量化によって使用する材料も減り、低コスト化も実現させた。
また、車体のパワープラントフォームも、ロードスターには必須だったそうだ。アクセルオンで即トラクションがかかるために、デフと車体がねじれないようにするためだ。エンジンミッションとデフを一つのフレームで繋いだため、ミッションマウントラバーは不要、デフマウントラバーも不要となり、その結果、コストが下がり、軽くもなる、という一挙両得のアイディアだった。
これら初代ロードスターでの「軽量化・ローコスト化」というこだわりは、現行ロードスターでもしっかりと引き継がれている。スポーツカーを愛するエンジニア自身が納得するスポーツカーを、リーズナブルな価格で実現してきた、これこそが、ロードスターが30年以上にわたって愛され続ける理由であろう。
■クルマを運転する醍醐味を教えてくれる
先日、マツダ主催による、とある取材のなかで、初代NAロードスターで首都高を走る機会があった。120馬力の1.6リッターガソリンエンジンと5速マニュアルトランスミッションの組み合わせは、強烈な加速Gを出せる昨今のクルマに比べたら、ぜんぜん速くはない。
トラックが真横を走りぬけると、風によって車体が引き寄せられてしまうほど、ボディは軽く、周囲のクルマの流れに合わせるため、必死にシフトチェンジをして速度を調節する。少し冷や汗をかくほどの運転体験であった。
だが、走り終えたあとの爽快感はたまらず、何とも楽しい気持ちで満たされた。クルマを運転することの醍醐味を味わうには、これが「答え」なんじゃないかと、勉強させていただいた。マツダのエンジニアがロードスターに仕掛けた、多くの「走りが楽しくなる世界」に、どうやら筆者はまんまと嵌められてしまったようだ。
■このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる
昨今の高性能スポーツカーは、速さを得るためにアルミニウムやカーボンを使うこともよくある。だが、当然コストは上がり、500万円以上は当たり前、1000万、2000万円円を超えるものも増えた。そうなるともはや、誰でも頑張れば手に入るような価格ではない。
ロードスターの魅力は、コストを抑えながらも、あの小さくて低くて可愛らしいボディに、ぎちぎちに詰め込んだハードな走りのメカニズムをもっている点、走れば走るほどドライバーに馴染む奥深さを持っている点だ。
平成が始まった1989年に誕生したユーノス・ロードスターの有名なキャッチコピーがある。「このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる」。このキャッチコピーには、ロードスターを生みだした、マツダの技術者たちの想いが込められている。
ロードスターを気に入って乗っている方や、オーナーズクラブたちの存在によって、マツダ自身が支えられていることは間違いない。ロードスター今後も、ファンに愛されながらつづいていくことだろう。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:MAZDA
Edit:Takashi Ogiyama