昨今の車といえば、とにかく「背が高い」ものに人気が集まっています。軽自動車も「スーパーハイトワゴン」といわれる、N-BOXやスペーシアが売れ筋であり、コンパクトカーも、ヤリスクロスなど、車高を上げたSUVスタイルのものが人気。また、ミニバンも昨今はアルファードやヴォクシーといった、全高の高いクルマばかりです。
しかし、今から20年ほど前の2000年頃には、エスティマやオデッセイ、ウィッシュなど、比較的、背が低いミニバン達が、ファミリーカー市場の主流であり、年間10万台を超える販売台数となるほど、人気を集めていました。しかしながら、これらのミニバンは現在絶滅状態。「天才タマゴ」といわれた、あのエスティマですら、2019年10月をもって生産終了となってしまいました。
なぜ、これら背の低いミニバンは、ここまで減ってしまったのでしょうか。背の高いモデルに人気が集まる理由とは!?
■ミニバンの歴史はここから始まった
エスティマが誕生した1990年は、カローラやマークII、クラウンなど、セダンタイプが主流の時代。ハイエースやバネットセレナのようなキャブオーバー型のハイトワゴンも、当時から存在はしていたものの、商業車チックなデザインや、背高ゆえにあまり高くない走行性能、よくはない快適性など、ファミリー層には刺さりにくい商品内容でした。
そんな中に登場した「天才タマゴ」こと初代エスティマは、それまでにはなかった、流線型のボディスタイリングに、2.4リッター直列4気筒エンジンを横に75度寝かせてフロア下に収めて平床化したミッドシップレイアウト、という凝った中身で、世界を驚かせました。
しかし当初は、全幅1800ミリという当時としては敬遠されるワイドなボディサイズに加え、価格も高かったことから、販売は思うようにはいきませんでした。しかし、1992年に、5ナンバーサイズに全幅を収めた姉妹車、エスティマエミーナ/エスティマルシーダが登場すると、一躍人気車となります。
この人気ぶりをみた各自動車メーカーは、その後、続々とこの手のミニバンを開発。ホンダ初代オデッセイ(1994年~)、トヨタ・イプサム(1996年)、ホンダ初代ストリーム(2000年~)、トヨタ・ウィッシュ(2003年~)など、いずれもデビューイヤーは10万台を超える販売台数を記録するという、人気ぶりでした。
この1995年頃から2005年あたりが、背の低いミニバンの全盛期であり、このミニバンブームが徐々にセダン市場が縮小していく流れのきっかけにもなりました。
■背高へと移行するのは必然だった
しかし、これら背低ミニバンのブームは長くは続きませんでした。自動車メーカー各社は、より多くの荷物が多く積め、視界が高くて見晴らしも良く、大人数が快適に過ごせるなど、ミニバンに求められる要素をより高いレベルで実現できる、背の高いミニバンに力を入れていきます。ミニバン用に開発したプラットフォームを採用し、走行安定性や乗り心地、音振性能など、ブラッシュアップを行い、背高ミニバンは瞬く間に商品力を上げていったのです。
こうして生まれた、ステップワゴン(1996年~)や、タウンエースノア(1996年~)、エルグランド(1997年~)、2代目セレナ(1999年)、トヨタ・ノア/ヴォクシー(2001年)など、背高ミニバンが続々と登場してくると、背の低いミニバンは、徐々にシェアを失っていき、2020年の現在残っている車種といえば、オデッセイやシャトル、エルグランド、プリウスα程度。どれもモデル末期に近いモデルであり、次期型が開発される見込みは低いものが多いです。ミニバンの人気が、背低から背高へと移行するのは、必然だったのです。
■背低ミニバンは本当に「意味がない」のか
国内市場は、背高のLサイズミニバンやミドルサイズミニバン、そしてコンパクトSUV、コンパクトカーで、今後10年は進むと思われます。しかし、背低ミニバンは、背高ミニバンより空力性能に優れるため、同じパワートレインであれば、全面投影面積が減らせる背低ミニバンの方が燃費も良い傾向だし、側面積が少ないことで直進安定性も背低ミニバンのほうが有利。また、ルーフに機材を載せるような場合にも、背低ミニバンの方が扱いやすいなど、背高ミニバンと比較して、利点がないわけではありません。
これらの利点だけで、背低ミニバンに再び注目が集まること考えにくいですが、人の心はうつろいやすいもの。このままずっと背高ブームがつづくことも考えにくいです。ひょっとすると、「背低ミニバン」の逆襲が、数年後にも始まるかもしれません。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:TOYOTA,HONDA.TOYOTA AUTOMOBILE MUSEUM
Edit:Takashi Ogiyama