服好きにとって、メンズショップの店主やスタッフと服の話をするのは何よりも楽しい。マニアックで博識でクセがすごい店の“トリセツ”を紐解いていくのは、原宿の通称プロペラ通りに1981年から店を構える『バナナボート』。40年前と変わらない大きな看板が目印の店内には、お宝級のジーンズが満載。マニアが泣いて喜ぶ“デッドストック祭り”だ。
【バナナボートのトリセツ①】デッドストックが桁違い
実際に着られる・穿けるサイズのお宝がガッチリ揃う
原宿を拠点とするセレクトショップを興したファッション界の強者どもが80年代にこぞって通ったという老舗ヴィンテージショップが『バナナボート』。店主の平野ケンジさんの右腕ともいうべきショップマネージャーの犬飼進さんは、「コロナになる前までは社長自ら定期的にアメリカへ買い付けに行っていました。僕は店番です」と笑います。
店内のガラス戸が付いたケースの中には、デッドストックのリーバイス®、ラングラー、リーのジーンズや、デッドストックのネルシャツ、ウエスタンシャツがあり、デッドのチノパンやユーズドのパンツなどや、店中央には、ジージャン、パーカ、シャツ、Tシャツなどが整然と並んでいます。
「今店の中にある商品で、犬飼さんのお気に入りの一枚を」と頼んだらセレクトしてくれたのが、記事トップの写真のリーバイスのジージャン「557」でサイズ40、値段は16万4780円。「60年代の3rdモデルの557ですが、2ndのシルエットで、デザインが変わっているのが気に入っています。これはワンウォッシュしていますが、この状態のものは絶対数が少ないですね」。
【バナナボートのトリセツ②】デッドのコンディションが桁違い
どうしても知りたい、「今店の中で一番高いのはどれですか?」
殿堂入り間違いなしのデッドストックリーバイス®がある中で、やっぱり聞きたいのが、「一番高いリーバイス®」。そして犬飼さんが出してくれたのが、50年代の501XX(ダブルエックス)のサイズ40-33で218万6880円。もちろんビンビンのデッドストックです。
「デッドストックなので、大人の男性が穿けるサイズは少なくなっているのは事実。たとえば501の赤耳(セルビッチ)は、28インチなら6万円台ですが、34インチになると20万円弱になります。コレクターでサイズは何でもいいという人もいますが、ジーンズ好きなら、やっぱり自分が穿けるサイズが欲しい。そうすると品物が少なくて、どうしても高くなりますね」と犬飼さん。
バナナボートで一番商品が充実しているのは、70年代のリーバイス®501の66(ロクロク)で、量もサイズも揃っているとのこと。「でも、お客さんはもうちょっと古いビッグEを欲しがるんですよ」。
【バナナボートのトリセツ③】犬飼さんの青春時代
犬飼さんが初めて買ったリーバイス®は606ビッグE
若かりし犬飼さんが足繁く通っていた洋服屋の店長に、「“どうせ穿くなら本物のデニムを穿いてみろよ”と言われて、どこに売っているんですか?と聞いたら、“バナナボートへ行け”と言われたのがハタチ前の頃」。
それで、バナナボートで初めて買ったのがリーバイス®606ビッグEで、当時2万5000円ぐらい。「自分には高かったけど、穿いてみたら、カチカチのあの雰囲気がたまらなかった」そうで、60年代の若者のスタイルに憧れていた犬飼さんにはたまらなく魅力的だったと言います。
「バナナボートがオープンしてすぐの頃は、フィフティーズショップのような感じでしたね。でも、本物のジーパンと出合ったのはノンフィクションの映画を観ているようで、あの頃は噛みしめて穿いていました。ヴィンテージリーバイス®の履き心地の違いや生地のコットンの違いは穿いてみたら分かりますよ」
お客さんとして通っていたある日、社長の平野さんから「お茶でも飲まない?」と誘われ、店を手伝って欲しいと言われて、1999年にスタッフとして入社。早21年だそうです。
【バナナボートのトリセツ④】デッドストックの未来
状態の良いモノは減っていく、欲しい人はもっと増える
デッドストックやミントコンディションを中心としたアメリカのヴィンテージを扱うバナナボートを見ていると、リーバイス®を筆頭とするヴィンテージデニムへの熱量は、コロナ禍であっても冷めることがないのを実感。実際に穿けるリアルなサイズがこれだけ揃っている店には、コロナ前は外国人もバナナボート詣でをしていたそうです。
ヴィンテージジーンズの面白さは発見だと、犬飼さん。「好きになっていくと奥が深くて、ディテールや生地、色の違いなど、調べれば調べるほど差異が出てきて面白くなってきます」。
「原宿という街をずっとウォッチングしているわけではないですが、店は時代と共にどんどん変わっていて、自分のような格好をした人は少なくなりましたね」と犬飼さん。
今、バナナボートにヴィンテージを買いに来るのは30代から50代の男性が多く、「一度下見してから、気に入ったモノが見つかれば、次にお金を持ってくる人とか、電話でサイズの問い合わせをしてくる人も多いですよ。デッドストックのジーンズは、状態の良いモノは減っていくし、欲しい人はもっと増えるし、マニアは手放さないし、これからどうなっていくんでしょうね」と話してくれました。
バナナボートにはメールもなし、FAXもなし、当然ECサイトもなし。ただクレジットカードは使えます。宝箱をそっと開けるような気持ちで、自分サイズのデッドストックを探しに行きましょう!
バナナボート
東京都渋谷区神宮前4-28-17
03-3401-0303
営業:11:00~20:00
無休
Photo:Shimpei Suzuki
Text:Makoto Kajii