皆さんこんにちは。中年B、ノリシゲセイイチ(56)です。
ちょっと記憶は怪しいのですが、ミウラだ! イオタだ! カウンタックだ! と熱狂していたスーパーカー少年時代、見たこともない謎のランボルギーニと遭遇したことがあります。その小豆色の2ドアクーペの鼻先には、馴染みある牛のエンブレムがあったことだけが思い出されます。
あれからウン十年。大人になってから知ったのは、ランボルギーニの創業者であるフェルッツィオ・ランボルギーニは、速くて快適に走ることができるグランツーリズモ作りから同社を始めたということ。いまいちピンときませんが、一世風靡したミッドシップスーパーカーの生産は自然の成り行きだったのかもしれませんね。
トラクターと空調設備を作るビジネスで成功を収めたフェルッツィオは、トラクター工場と同じ敷地内で新たな歴史を刻むファーストモデル、ランボルギーニ350GTVの開発をスタートさせました。そして現在の聖地、サンターガタの新工場から1963年10月開催のトリノオートショーに出展。無事、デビューを果たします。
このプロトタイプはカロッツェリア・ベルトーネのフランコ・スカリオーネがデザインを担当。もともと航空機の分野に進みたかったという人物だけあり、強く空力を意識したデザインは回転式リトラクタブルヘッドライトを採用するなど、随所に見るべきものがあります。まるでキャノピーのようなグラスエリアが斬新です。
搭載するオリジナルのV12エンジンは、伝説の名車フェラーリ250GTOのエンジンを設計したジオット・ヴィッザリーニが設計しました。当時、エンツォ・フェラーリとひと悶着あったといわれるヴィッザリーニは、ちょうどフェラーリを止めたところだったのでフェルッツィオには好都合。このエンジンが元となりカウンタックを最後まで支えることになるのですから基本設計の優秀さが光ります。
【Lamborghini 350 GT(1964–1966)】
ボディサイズ:全長4640×全幅1730×全高1220mm
ホイールベース:2550mm
トレッド(前後):1380mm
エンジン:60度V型12気筒DOHC
総排気量:3464cc
ボア×ストローク:77.0×62.0mm
圧縮比:9.5
最高出力:280hp / 6500rpm
最大トルク:325Nm / 4500rpm
前後重量配分:48 / 52%
最高速度:250km/h
タイヤサイズ(前後):HS 205/15
車重:1050kg
生産台数:120台(内23台は400GT2+
ランボルギーニの2ドアGTの歴史は、プロトタイプ車両の350GTV、量産モデルの350GT、スパイダー版の350GTS(わずか2台)、排気量を4リッターに拡大した400GT2+2、へと続きます。この3台のホイールベースを並べると2450mm→2550mm→2690mmとなり、パッケージの進化の具合が読み取れると思います。
1968年の400GT2+2生産終了以降、イスレロ、ハラマ、エスパーダは、いずれも闘牛に由来する車名を採用しています。この辺りも時代の流れを感じさせます。
350GTVに搭載されたヴィッザリーニ・エンジンの当初のスペックは、最高出力360hp / 8000rpmを誇りました。ただ、このままでは一般ドライバーに向かないため、エンジニアのジャン・パオロ・ダラーラとテスターのボブ・ウォレスがデチューン。潤滑システムもドライサンプからウェットサンプへ変更し、上記のスペックで市販モデルの350GTに搭載しました。
市販化に向けたデザイン修正と生産はカロッツェリア・ツーリングお得意のスーパーレッジェーラ方式を採用。ヘッドライトは残念ながら固定式へと変更されましたが、V12エンジンを搭載して車重を1050kgに収めたのですから大したものです。後輪軸の方がやや重いのも特徴です。
ミッドシップスーパーカーへの進化は時の必然。現在のSUVもライフスタイルに配慮すれば同じことがいえるのでしょう。では、フェルッツィオが目指したグランツーリズモとは? 永遠のクラシックなのかもしれません。
Text:Seiichi Norishige