褒められ上手は、コミュニケーション上手!
コミュニケーション講師の藤田尚弓です。
誰かに褒められるのは嬉しいこと。「自分は褒められて伸びるタイプ」を自負している人も多いことでしょう。いざ褒められたとき、あなたはどんなリアクションをとっていますか? 反射的に謙遜するというのが一般的ですが、謙遜の仕方によっては残念な結果を招くこともあります。
また、謙遜以外の返し方も大人のマナーとして身につけておきたいところ。褒められたときのスマートな返し方やリアクションの仕方をご紹介します。
褒められたとき、過剰に謙遜してしまうのはなぜ? その心理とは?
「とんでもございません! 私など、まだまだ未熟者で……、お恥ずかしいくらいです。」一般的な謙遜のフレーズです。私たちは誰かに褒められたとき、反射的に謙遜するのが礼儀だと考えていますが、謙遜しすぎることでかえって失礼な態度に見えたり、相手に不快な思いを与えてしまったりという可能性もあるのです。
それはなぜか? 褒められたときの心理について考えてみましょう。
誰かに褒められると素直に嬉しいと思う反面、恥ずかしさや照れくささを感じること、ありますよね。居心地の悪い気持ちが無意識のうちに表情に出てしまうこともあります。褒められたからといって、調子に乗ったり、舞い上がって見えないよう、表情をおさえてしまうこともあるでしょう。
褒められても素直になれないため、必要以上に謙遜してしまう。また、言語学者のブラウンとレビンソンによると、褒められた人が謙遜しなくてはならない、褒め返さなければならない、など褒められることにマイナスがあるという指摘も。褒められるのは嬉しいけれど、少しうっとうしい心理になるのも理解できますよね。
褒めた人にとって、過剰な謙遜は「否定」の意味になる
謙遜しすぎによって、コミュニケーションが気まずくなる会話例をお見せしましょう。
【例】
相手『○○さん、ご栄転とか! おめでとうございます。そもそも仕事ができる人なのに、誰よりも早く出社して頑張ってましたもんね。』
あなた「いやあ、たまたまです。運が良かっただけですよ。」
相手『いやいや、あれだけ努力できるのってすごいですよ。尊敬します。』
あなた「いやあ……、本当に運が良かっただけだと思います。」
この会話は、謙遜のしすぎで相手に不快な思いを与えてしまう例です。
謙遜が繰り返されることで、褒めた相手は「せっかく褒めたのに、そこまで否定しなくても……」とがっかりしたり、「お世辞だと思われたのか? 素直に褒めたつもりだったのに……」と興ざめした気持ちになってしまいます。
もっと言えば、あなたは謙遜しているだけでも、相手の気持ちでは「こちらが言っていることを、いちいち否定されている」と取られかねません。否定が続くと、最悪の場合では拒絶されたと感じ、防衛本能がはたらき始めてしまうことがあります。
防衛本能がはたらくと、「せっかく褒めたのに感じ悪いなあ」という気持ちから「ずいぶん素っ気ないな……。まあいっか、あの人のことはそもそも好きじゃないし。」という心理的な動きが起こります。過剰な謙遜により、むざむざと信頼できる人を失いかねないのです。
褒められたら褒め返す、その作戦の思わぬ落とし穴とは
過剰な謙遜と同様に気をつけたいのは、褒められたとき反射的に褒め返すことです。再び先ほどの会話例で見てみましょう。
【例】
相手『○○さん、ご栄転とか! おめでとうございます。そもそも仕事ができる人なのに、誰よりも早く出社して頑張ってましたもんね。』
あなた「私などまだまだです。●●さんこそ、研修とかセミナーに率先して参加していて、すごいって聞きますよ。」
このように、褒められたら反射的に相手を褒め返す人も多くいます。実はこれこそがコミュニケーションの落とし穴。なんとなく、ギクシャクした雰囲気にもなりかねません。
義理や体裁で褒められて、嬉しく思う人はいるでしょうか? せっかく褒めたことをうやむやにされたと感じる人もいるはずです。相手にしてみても、急な褒め返しで恥ずかしく照れくさい気持ちになることも考えられます。
それでは、褒められたときのスマートな返し方とはどのような返し方でしょうか。
褒められたときの、スマートな返し方を覚えておこう
誰かに褒められたときにおすすめしたいスマートなリアクションは、謙遜したあとに一言感想を付け加えることです。先ほどの会話例をもとにご紹介しましょう。
【例・改】
相手『○○さん、ご栄転とか! おめでとうございます。そもそも仕事ができる人なのに、誰よりも早く出社して頑張ってましたもんね。』
あなた「それほど早く出社しているわけでも……。でも、分かってくれる人がいることは励みになります。ありがとうございます。」
謙遜はしながらも、相手が褒めてくれたことを受け入れたニュアンスと感謝の気持ちを表現できています。この後のコミュニケーションも円滑に進めることができるでしょう。
伝えるべきは、謙遜の気持ちと、わざわざ褒めてくださったことへの感謝。この2点につきます。
さらに加えたいのは「●●さんに褒めていただけたなんて」というフレーズです。このフレーズにより、褒め返しとは取られずにさりげなく相手を褒め返せるのもポイントです。
このフレーズは、過剰に謙遜してしまったときや、照れくさくて表情が固くなってしまったときに、状況をリカバリーできるという利点もあります。
「僕はまだまだ力不足ですが、尊敬する●●さんに褒めていただいて嬉しいです。」
「お祝いなんてとても恐縮です……。でも●●さんにお声がけいただいて、やった甲斐がありました。ありがとうございました。」
「新しい服でまだ慣れないんだよね。でも●●さんが褒めてくれたから、正解だなって思った。ありがとう、ちょっと自信がついたかも。」
という案配でフレーズをアレンジすることで、褒めた人も、褒められたあなたも、気持ちのいいコミュニケーションになるのです。
褒められたことをキャッチして、相手にお返しもできるこのフレーズを、さらりと言えるようになれば、スマートな印象を残せることでしょう。ぜひ、使ってみてくださいね。
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