「直6神話」と言われるほどに人気のある、直列6気筒エンジン。クルマ好きは、BMWの直6エンジンを「シルキーシックス(絹のように滑らかに回転するフィーリング)」という愛称で呼んだり、かつて日産スカイラインGT-Rに搭載されていたRB26DETT型エンジンを「日本を代表する直6」として、崇めたりしています。
直6エンジンは一時期から、V型多気筒エンジンやダウンサイジング加給エンジンへと置き換えられていきましたが、近年また復活し始めています。例えば、メルセデス・ベンツSクラスや、新型スープラ(BMW製の直6ユニットを搭載)、そしてマツダも直6エンジンの高級車の開発を進めていることを公言しています。
どうしてV6でも直4でもなく、これほど直6エンジンが好まれるのでしょうか。
■直6は自動車用エンジンの最高型式
クルマ好きが直6を好む理由は多々ありますが、その多くは、回転上昇時の振動の少なさ、軽快なふけ上がり、迫力のあるエンジンサウンド、リニアなトルク感などに魅了されている方が多いようです。
エンジンのふけ上がりやサウンドなどは、他のエンジン型式でもセッティング次第では突き詰めていけますが、「振動の少なさ」については、直列6気筒エンジンがもつ特有のメリットであり、「自動車用エンジンの最高の型式」、「完全バランス」とも呼ばれています。
「振動の少なさ」は、なぜ、直6エンジンでなければできないのでしょうか。
■直4エンジンにはなくて、直6エンジンにはある特徴
直4、直6、V6、V8など、どんな型式のエンジンであっても、「吸気→圧縮→燃焼→膨脹」の燃焼サイクルを行えば、必ず振動は発生します。振動の発生要因は大きく3つ、「1次振動」、「2次振動」、「慣性偶力」です。
【1次振動】クランクシャフト1回転に付き1回発生 ピストンが上下へストロークすることが原因
【2次振動】クランクシャフト1回転に付き2回発生 ピストン下降時と上昇時に、コネクティングロッドが左右に振られることが原因
【慣性偶力】エンジンの重心を中心に回そうとする力であり、ピストンやコンロッドの上下運動のアンバランスが原因。すり鉢で味噌をするときのスリコギの動きから、「味噌摺り運動」とも呼ばれる。
エンジンは、1工程で360度×2周(720度)回るため、直列4気筒エンジンの場合だと、180度のクランク角を付けています。「吸気→圧縮→燃焼→膨脹」の燃焼サイクルが順番に起こる際、「1次振動」と「2次振動」によっておこる力が「対」になるように打ち消しあえば、振動は発生しないことになります。
ですが、直4の場合だと、キレイな「対」にはならず、どうしても遇力(味噌摺り運動)が発生します。その対策として、クランクシャフトに付けたカウンターウェイトや、バランサーシャフトを駆使して、何とかバランスを出しているのが直4エンジンの状況です。
それに対して、直列6気筒エンジンは、1工程720度を6等分した120度のクランク角としています。この場合、どこかの気筒がどこかの気筒と必ず「対」になることで、「1次振動」と「2次振動」が打ち消され、「慣性遇力」が起きないようにできているのです。そのため、原則的には、カウンターウェイトやバランサーシャフトがなくても、振動がうち消せることになっています。このメカニズム的なメリットを取って、「直6は完全バランス」だと言われているのです。
ちなみに、点火の順序は、そのエンジンが持つ基本特性、例えば、エンジンの重心位置やボア&ストローク、エンジンのレイアウト、補器類の重さと搭載位置など、全てを加味してバランスがとれるよう、決められています。
■しかし、直6が生き残るのは難しい
エンジンの振動メカニズム的には、「完全バランス」といえる直列6気筒エンジンですが、やはり、コストの面では、直4には敵いません。
また最近では、その直列4気筒よりもコストの低い、直列3気筒エンジンがコンパクトカーを中心に使われています。それには、カウンターウェイトや、バランサーシャフトの設計の造り込み以外にも、最新シミュレーションを駆使したエンジンマウント本体の進化も影響しています。
しかしながら、直6エンジンは、クルマ好きにとっては憧れのエンジン。ハイブリッド車やEV、FCVなど、環境にやさしいクルマはもちろん必須ではありますが、一方で人の感性にも響くこうしたエンジンも残してほしいな、と思います。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:Getty Images,NISSAN,TOYOTA,Mercedes-Benz
Edit:Takashi Ogiyama