「山ちゃんの洋品天国」、本日は浅見光彦スタイルで“洋品の聖地” 横浜にやってきました!
そんな理由で、明治時代から横浜には様々な洋品店が生まれてきましたが、現存するお店はごくわずか。そのひとつが、外国人居留地にルーツをもつ元町商店街に店舗を構える、「ザ・ポピー」なのです。なんと創業は1881年。明治14年つったらアンタ、大日本帝国憲法が発布されるずっと前ですよ!
私たち取材班を迎えてくれたのは、代表取締役社長の織田俊彰さん。創業家の親戚筋にあたる方なのですが、実はここだけの話、この織田家は戦国時代を代表するスーパースターの子孫にあたるという噂も……。
スパニッシュ様式の重厚な店構えに、かぐわしき明治の薫りを感じながら入店したものの、「実はこのお店は1980年代に立て替えたものなんですよ」と言われガクッ。よく考えたら当たり前のハナシですが、そう錯覚させるほどに風格のあるお店なんです。おそらくめちゃくちゃ儲かってたんだろうな〜。
こちらの歴史をざっと解説すると、明治時代に金沢で創業し、当時の外国人向けに高級な陶器を輸出していた「織田商店」が、第二次大戦後、元町に「ザ・ポピー」の名前で紳士服を開店。三島由紀夫、高倉健、徳大寺有恒……といったスターや文化人に支持される名店として、長きにわたって君臨している、という感じです。その間にはアイビー、トラッドブームに乗ったりもしたけれど、店構えを見ればわかるように、ここは本来かなりの高級紳士服店。若者たちにとっては“敷居の高い”店だったわけです。
しかし! そんな理由で入らないのはもったいない。なぜなら輸入品の価格がメタクソ上がった現代においても、頑なに数十年前の価格設定のまま営業を続けている「ザ・ポピー」は、いわば良心的街中華のごとき存在。穴場だし、大切に守っていかなくてはいけないのです!
たとえば日本を代表する紳士たちに愛された、お店を代表する名品のネクタイは、なんと5500円から1万円! もちろん手抜きなんてあろうはずもなく、純英国調のストライプやペイズリータイは薄手の芯を入れてつくられていて、締めると一発で結び目がキマる、一級品です。
ナチュラルショルダーのブレザーは、胸まわりにしっかりと毛芯を入れて立体的に仕立てられており、“出るところに出られる”逸品。いわゆるアイビーというより、英国的な美意識を強く感じさせますね。ちなみに袖ボタンは2つというのが、「ザ・ポピー」流です。
そして最後にドレスシャツ。こちらはブルックススタイルのボタンダウンシャツと、レギュラーカラーシャツのみという潔いラインナップに、「ザ・ポピー」の美学を伺わせます。実はかつてはお店の2階に職人が常駐しており、オーダーシャツに関しては手作りしていたのだとか。これって“シャルべ”や“アルニス”と同じスタイルですよ!
こうして「ザ・ポピー」の商品を見ていくと、人によっては「超普通じゃん!」と思う方もいるかもしれません。かくいう僕がそのひとりで、いわゆるクラシコイタリア系のスタイルにハマっていたちょっと前までは、その魅力に全く気付きませんでした。
そっちの流儀でいうとモノトーンなんて退屈だし、袖ボタンだって本切羽が基本で、願わくば手縫いであってほしいし、レギュラーカラーのシャツなんて問題外じゃないですか! しかし、なぜだか今はこの普通さに奥深い魅力と、新鮮さを感じてしまう。それは凝りまくった創作系ラーメンよりシンプルな醤油ラーメンが、そして色々とトッピングをのせたうどんより素うどんを楽しめるようになった僕の、成熟の証明ということなのでしょうか……? 織田さんの先代が遺したという名言「流行から個性は生まれない」は、ありがたくパクらせて……いや、胸に刻ませていただきます!
さて、オジサンのみならずトラッド好きな若者たちにも新鮮なベーシックワードローブがたくさん揃っている「ザ・ポピー」ですが、小ロットではなかなか生産ができない国内でのものづくり環境ゆえに、新商品がバカスカ入荷される、という状況ではありません。こういうお店がずっと続くように、ぜひとも応援していただきたい!
【商品に関するお問い合わせ】
ザ・ポピー
神奈川県横浜市中区元町2-86
045-641-0373
営業時間はお問い合わせください
定休日 月曜日
Text:Eisuke Yamashita
Video:Yoshihide Shoshima
Edit:Takashi Ogiyama