皆さんこんにちは。中年B、ノリシゲセイイチ(56)です。
スーパーカー少年にとってのフェラーリとは、無論、至福の365GT/4BBを指すのですが、いななくサウンドに関してはコレを上回る名車があります。スポーツ濃度において最後のFR車となる365GTB/4、通称“デイトナ”です。
漫画『サーキットの狼』では早瀬左近のオイルリークにより天誅が下るのですが、名も無き雑魚キャラが乗るこのフェラーリ、BB様のミッドに収まる神聖な12気筒エンジンが見劣りするほど素晴らしいサウンドを奏でます。
スーパーカー未経験者に対しどう説明するのが順路的に正しいのかわかりませんが、まずはこの通称名から話を始めます。
デイトナとはル・マン24時間に並ぶ米国での耐久レースの名称から来ていますが、同時にレーストラックの名称でもあります。クルマ好きなら「そのレースで優勝したんでしょ」と思われるでしょうが、デイトナで実際勝ったのはスポーツプロトタイプの330P4や412Pです。
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とはいえ、レース好きがこのデイトナを放っておくはずがありません。1972~1974年のル・マン24時間では3年連続クラス優勝を遂げています。きっとスクーデリア・フェラーリ創設時からのエンツォの盟友、ルイジ・キネッティのアイディアだったのかもしれませんね、あくまで私見ですが。
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デイトナのタイムラインは1968~1973年です。サラッといえばBB登場前のフェラーリのフラッグシップカーという存在です。数字の365は1気筒あたりの排気量を意味しますが、12気筒分の端数がありますので総排気量は4390ccとなります。GTはそのまんま、Bはクーペを意味するベルリネッタ、4はカムシャフトの総数を意味しています。ちなみにオープンボディのスパイダーを意味するGTSもあり珍重されております。
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デザインはピニンファリーナ在籍時(1964~1987年)のレオナルド・フィオラヴァンディです。このお方、スーパーカー少年が夢中になった当時のフェラーリをすべてデザインしています。いうなればレオナルド・フェラーリがスーパーカーなワケですね。
さて、やっとエンジンです。バンク角60度のV12エンジンはすべてのシリンダーが等間隔で爆発・燃焼するので理論上、振動が発生しません。設計者は同社のヴィットリオ・ヤーノの元で鍛えられたジョアッキーノ・コロンボ。彼の設計したエンジンは通称コロンボ・エンジンと呼ばれます。
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このエンジンの原型は1946年にコロンボが設計した1.5リッターのV12エンジンです。コロンボとエンツォはアルファロメオ在籍時の1929年から縁がありますのでこの方も盟友ですね。試行錯誤を繰り返したエンツォもエンジンは12気筒こそ最良であるといってます。ちなみにデイトナの最高出力は325ps/7500rpmというのが公称スペック。
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『サーキットの狼』では脇役だったデイトナですが、ワタシが開眼したのは1977年に日本公開された映画『激走! 5000キロ』です。いまなら原題の『THE GUMBALL RALLY』と記した方がいいのかもしれませんが。
1977年のスーパーカー少年は当時中学1年生。封切りで見てもう夢中になり、2本立てのドサまわり半額となってからさらに6回も見ちゃいました。もう、ひとり『フォードvsフェラーリ』状態(笑)。
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最初の見所は公道レース前半、早朝の摩天楼に木霊するデイトナ・サウンドです。甲高いカンツォーネはレプリカでは出せない、本物のフェラーリV12エンジンの音色です。ロスコー警部と変態ハロルドの出会いも忘れてはいけませんね。そして、クライマックスの用水路でのバトルシーンへとストーリーは続きます。
劇中では主人公がACコブラ(427)、ライバルにデイトナ・スパイダーという設定です。427をマイケル・サラザン、365GTS/4をラウル・ジュリアがノースタントでドライブするのですが、出演前の彼らはズブの素人であり、確かどちらかはドライバーズライセンスすら持っていなかったと記憶します。
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飛んだり跳ねたり壊したり……といったハリウッドらしさを極力抑え、ピュアなチェイスシーンを繰り広げる『激走! 5000キロ』は、監督のチャック・ベイルがスタントマン出身だからなのでしょうね。ワタシは『キャノンボール』が嫌いです。なぜならクルマを単なる道具として潰すから。
スーパーカー少年であるワタシにとってBBは愛でるフェラーリ、デイトナは対峙するフェラーリです。実際に乗ってみると、低速でクソ重たいステアリングに閉口しますが走り出せば技量と集中力が試されます。でもね、だからデイトナは最高なんです!
Text:Seiichi Norishige